第37話 5日目 カブト

 どんな感じ ?

 とゲンに聞かれて


「痛くない」

 としか、答えようが無かった。


 指が、生えていた。産まれたてのせいか白っぽいけれど、関節も爪もシワも普通にある、俺の右手と同じような小指だった。動かしてみても痛みもないし違和感もない。更に言うと金属感もない。左手を見つめながら怖々動かしていると、突然『くのいち』に包まれた。


「ごめんなさい。声が出しにくくなってしまったから、ここで会話しましょう。わたくしのしっぽの先を取り敢えず移植したのだけれど、耐久性、利便性、もちろん見た目も問題ないはずよ。ただ、本物の指を付ける手術を受けに行くのなら止めはしないけれど。その場合は今わたくしが指を保管しているからお返しするわ」


「いらない、いらない。自分のものだけど自分から離れた物見たくない」


「華武人君の寿命が尽きるまでのなら、私も賛成するよ。本物の方は上手く付いたとしても、そのあとが大変だろうから」


「わたしも。もう泣くパンダ君見たくない」


「保証します。そしてごめんなさい。守るって言った約束果たせなかった」


「私もだ。謝って済む問題ではないが。済まなかった」


「わたしも。ちゃんと守ろうって思ってたのに。こんな事に巻き込んでごめんなさい」


 謝られても、皆は悪くない。


「でもまだ終わって無いよね ? リョウは ? ナギのお父さんは ? 」


「そうだね。まずは猿を探しに行こう」


「何処にいるかは、大体は分かります。 誠様にいくらか残っていますから、そこからの繋がりを辿っていきましょう」


 くのいちドーム会議を終える。


 ナギ父は燃え尽きたボクサーのように座り込んでいた。近付いて行くと顔を上げ、俺の左手を見て


「良かったじゃん」


 と言った。結城さんとナギは言い返したい言葉が口の中で渋滞を起こしたみたいで唸り声を上げているが俺はもう 認定したので


「まあ、そうですね」


 と返事をしておいた。


 白衣の下のシャツをに着ているような人だから。


「猿を分解したいんだが」


 ナギ父は黙って シャボン玉を夢のようにたくさん出す為のような外観の銃を結城さんに渡した。スリンキー発射じゃない方のもう 1つの銃だ。


「猫と猿以外には役に立たない」


「ああ、それでも人には向けない」


 と冷たく言い返す結城さんはナギ父に目も合わさない。


「ゲン、案内を」


 そして振り返らずに声を掛ける。


「一緒に来るか、ここで待っているか」


「疲れたからここに居るよう」


 この人との約束は役に立たないが、何をするか分からない人を連れて行くのもしんどいのでそのまま俺達だけでゲンの後に続いて歩く。


「ドコアルと繋がっていない今、誠様からそう遠く離れることはないでしょう」


 と言うゲンの言葉通り、研究所の裏の雑木林に本体は居た。もう、気力が無いのか体力が無いのか逃げようとはしなかったが歯を剥き出して威嚇してきた。ボス猿級の大きさの雄ザルである。犬歯が凄い。ナギの腕など貫通してしまうだろう。


「少し話をしたいのだが、いいだろうか」


 と、話しかける結城さんにヨダレを垂らしながら更に威嚇してくる。


「彼とは会話出来ない ? 機能が無い ? する気がない ? 」


 すると、リョウを含む全員がくのいちドームに包まれた。


「機能がないわけでは無いですが、する気があると言いますか、ないと言いますか………リョウは物凄くなんです。わたくしを通してなら、何とか会話は出来ると思います。皆さんの言葉はリョウに聞こえています」


 ナギ父と、あんな連携プレイを見せたのに超絶シャイとはこれ如何に ! と突っ込みたくなったが結城さんがピシャリと


「では、それで構わない。お前は私達にとって害悪なので消滅してもらう」


 ほんの1、2秒程ゲンがだまった。


(( 仕方ないことだ。だが崩壊がはじまっている。長くは持たない。勝手に消えていくのだからほっといて貰えないだろうか ))


 聞いたことの無い声がした。だが同時にゲンがリョウの言葉を伝えていると理解した。


「笑止千万 ! 自分がした事を考えろ ! 他人に牙を剥けば、己に帰るんだ。引導を渡してやる」


(( 俺はそれでもいいが、危ないぞ。俺はと繋がっていないからこの身体と離れたら地球の重力に引かれていく。近くにいると巻き込まれるぞ ))


「可能性は、勿論あります。あなた達にも精神は有るのだから。リョウの近くには居ない方がいいでしょう」


 ゲンの言葉にも結城さんはかぶりを振った。納得できないようだ。


(( の足元をよく見ろ。あの親父がやった ))


 改めて猿を観察すると腐葉土のような地面に隠れているわけではなく、下半身があらかた溶けたように無くなっていた。


(( ちょっと試させて、と言って許可なくやった。全く、信じられん。それだけでは無い。猫だけ誘き寄せるための計画を、次から次に人を招き寄せるような事をしやがって、関わりを持つ人間は奴 1人だけのはずだったのに ))


 ナギ父はどこでも安定の滅茶苦茶な人間のようだ。


(( 俺は、どちらでも構わない ))


「そのままだと、猿から本体が離れるまでどのぐらいだ ? 」


(( 中の核まで到達するのに3日〜7日と言った所だ ))


「ゲン、リョウを外して会議をしたい」


 くのいちドームが解除され、もう一度包まれる。


「誠さん絡みだと、同情の念を禁じ得ない。だからと言って許す気は無いが。引き金を引くのを躊躇したのは、彼に聞きたいことも出てきたからだ。

 ただ、今物凄い疲労感に襲われている。ナギや華武人君と家に帰って食事と休憩をしてくるが、ゲンに見張りを頼みたい。」


「はい。分かりました。お任せ下さい」


「リョウに遅れを取る可能性は ? 」


「ありません。1度目は地下の筒を分解した時。あの時はUFOに戻るドコアルに混じってリョウ玉が一斉にわたくしに襲いかかったものですから」


 2回目は勿論ナギ父にスリンキー攻撃された時だ。


「わたくし自身は勿論無事でしたが、中身の白猫が少し壊れてしまったので。大切だったので意識を中に向けている時にリョウに襲われました。面目次第も御座いません。もう、遅れを取ることはありません。もし、わたくしの核を取られたとしても、彼自身の核はもってあと数日です。脅威はありません」


 そしてゲンはそこに残り、俺達は家に戻ることになった。


 もちろん、俺の血の後始末をしてから。俺と結城さんの手はまだ血まみれだったからね。

 ついでにナギ父の所へ顔出て一旦家に帰ることを告げると


「じゃあここで待ってる」


 と言ってリュックを持ってきてもしゃもしゃと食料を食べ始めた。

 まあ、ほっといてもいいだろう。














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