第35話 5日目 カブト
リョウドームに捕まった時、結城さんが俺の腕を掴んでくれたので一緒の空間に居られたけれど、ナギだけ別だった。さすがに父親なんだから酷いことはしないだろうと思ったけれど、1人だけのナギが心配で、
「姫ちゃんとの1番楽しかった思い出はなんですか」
と、ナギ父の脳内にイメージが浮かぶように言ってみた。
だって絶対この人に、後ろにオバケ、とか言っても喜びそうだし。
どちらかと言うとナギ寄りで攻めた方がいいんじゃないかな。
「あー、それ、それねー。そうなんだよ。僕だって嫌われるようなことはしたくないんだよ。姫ちゃんとの思い出は、とっても楽しかったあの時で、君たちはぁこっち」
と言って世界が変わる。遊園地へと。
「遊園地は、ナギが嫌いだって言っていたな」
結城さんが呟くと
「馬鹿にするなよぉ」
ナギ父が吠え、黒い巨大手のひらが出現して結城さんをつかみあげ、くるくる回っているティーカップに落とし込んだ。普通のアトラクションではない。ナギ父の脳内だから観覧車とメリーゴーランドも合体している。土台の部分がメリーゴーランドのように回り、観覧車のカゴの部分がティーカップになっていて、しかもグルグルしている。
結城さんがグルグルに弱いの知っているんだろうか。
「君はそれを脱いで貰うよ」
もう1つの巨大な手、つまり両手を出現させて、俺の『くのいち』を剥がしにかかってくる。黒いということはリョウをイメージしているんだろうか。つままれたらダメかも。いや、それ以上にその卑猥な感じに動くのやめてくれ。
とにかく捕まったら一大事。と思って走り出す。ナギ父の頭の中では遊園地はとにかくごちゃごちゃしている認識らしく、色んな訳分からないようなアトラクションが密に乱立していて陰に隠れやすい。フラットにされたら俺はやりにくいが結城さんは助かる。
そう思いながらサーカスのテントのような所に隠れる。
「ナギを ヨンデ きま しょう」
ゲンが話しかけてきた。
「あなたたちは、3にんガつよいから。まことサんは、ころすツモリはありませんカラいまのうちに」
「分かった」
俺は答えて妖怪アンテナを立てた。出来ると思ったことはここでも出来た。急いで向かおうとテントを出た拍子に右手に見つかってしまった。掴みかかってくるそいつに俺は思いっきり
「っっめーんっっっっ」
と、面を打ち込んだ。
あまりに痛かったのか、この世界にノイズが走る。
俺だって、竹刀だったら『くのいち』で出せると思ったんだよね。正解。いや、相手は手だから
妖怪アンテナに導かれるようにひた走る。先程の攻撃が余程効いたらしく左手さえ襲ってこない。色んな色彩が脳髄を刺激して、俺だってこんな遊園地嫌だと思いながら最後に噴水に飛び込んだ。
遊園地から抜け出すと、今度はカラクリ屋敷のようだ。でも、カラクリ知らなくても妖怪アンテナの通りに進めば、何も問題ない。ごめんね、カラクリ作った人。合計3つ、どんでん返しして掛け軸の裏に入いって引き戸に騙されないようにして、ナギのところに到着した。
早く戻りたいから結城さんが、って言ったんだよね。でも今来た道がシャッフルされた時にあれ ? って思った。
この、襖が12の部屋も確かに結城さんのところに通じている。けど、さっき居た部屋はもっと太く通じている。いや、結城さんでは無くナギ父に繋がっている。だから、そっちが正解なんじゃないかって気がして、ナギのもと居た和室に連れ戻してみたら、ちゃんと正解にたどり着いた。ナギ父はこちらはシャッフルしなかった。自分に繋がる道だから。
「からくり屋敷は好きなの ? 」
とナギに聞いてみると
「からくり屋敷が好きって言うよりも、昔家族で行った忍者屋敷の思い出がいい思い出なの。とても褒められたの。凄い、よく見つけたねって。あの通り、子供を楽しませるより自分が、の人だから、褒められて嬉しかった。たまたまわたしが仕掛けを見つけたら、素直にとても褒めてくれて」
「じゃあ、遊園地は ? 」
ナギ父は好きだと思っていて、結城さんは嫌いだと思っている。
「遊園地自体は好きでも嫌いでもない。おとーさんと行くのは嫌。待てない人なんだよ、とにかく。あの人と遊園地は駄目」
そういう事か。ナギ父は喜ばせようとナギを遊園地に連れていったに違いない。忍者屋敷は喜んでくれたから、遊園地も喜んだと思ったんだ。でもナギが喜ぶのは場所ではなくて、父が自分と向き合ってくれる時間だという事だ。
松の廊下のような、長ーい 1本道を 2人で走る時に道が途切れた。分断されたという意味ではなく、ほんの 1〜2秒現実の世界に戻る。
俺たちは 3人で団子のように固まっていて、ナギ父が向こうから見ている。彼はリョウドームに入らずとも影のように足から伸びているのものだけで事足りるようだ。
「今、この世界途切れなかった ? 」
「俺がさっき竹刀でぶっ叩いたからかな。ちょっと悪いことしたかな」
でもあれがリョウだったら、『くのいち』で叩いたってことは
じゃあ、おあいこだな。
廊下は途中から滑り台になっていて、行き着く先はやはり噴水だった。水しぶきを上げて飛び込む。
「結城さんを助けなきゃ」
結城さんがどんな目にあっているかすぐ分かったみたいで、変な感じでぐるぐる回る観覧車に向かって走りながらナギが言う。
その目は観覧車を巨大な手でさらに回している父親に向けられている。
「なんて事するのよ、許せない」
さて、ナギの本領発揮を、俺は驚きの目で見る事になった。
アニメか、ゲームの世界のように両手から『くのいち』を伸ばし、体を引き寄せを繰り返し、あっという間に結城さんの元にたどり着き、彼に抱きつくとそのままカップからダイブした。あまりの早業、躊躇ない動きにナギ父がおおーとか言いながら拍手している。
ナギのイメージ力も上がっているらしく、『くのいち』バンジージャンプは無事成功し、また3人揃うことが出来た。
ちなみに、くのいち=ゲン本体 だけど、ゲンに言い換えると厄介なので、俺達が使っているのはやはり『くのいち』です。
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