第34話 5日目 姫

 くのいちドームが解除された瞬間に眩しく照らされて動きが止まってしまった。

 すると、何か発射される音がしてすぐ側を何か通り抜ける。

 そのあと硬い音が響いた。


「今ゴンって ! ゲンがゴンって ! 」


 パンダ君が走っていく音がして、


「ゴーン、ゴーン、大丈夫か ? ! 」


 いつものパンダの慌てっぷりに、ゲンだ、馬鹿者。と心で突っ込むが何が起きたかいまいち分からない。光源に背を向け塞いでいた手を取り、パンダに目をやるとぐったりしっぽの垂れたゲンを抱き上げる所だった。

 研究所の地下。現実世界だ。


「たい……ちょぷ……デス」


 かろうじて声を発するゲンだったが明らかに通信障害が起きている。


「あなたは ! ! 何をしているか分かっているんですか ! ! 」


 普段聞いたことがない結城さんの怒鳴り声だ。


「これは、スリンキー発射の試作品です。お猿さんに教えて貰って作りました」


 普通の声音で答える父に


「そうじゃない、そういう事を言っているんじゃない」


 結城さんも流石に言葉に詰まる。


 試作品でミニタイプとはいえ地中40メートルに一気にバネ状の物を筒にして差し込める技術のものだ。人に向けるべきものでは無い。狙ったゲンに当たったからと言ってすぐ側にはパンダ君も、わたし達もいたのに。

 ゲンに当ててもいいということでは無いからね ? それだけ非常識だという事。


「だから〜。猫必要なんだって。置いてってよ、そこの君」


 言われたパンダ君はキッと父を睨むと自分の『くのいち』の中にゲンをモコモコと取り込んでいく。モコモコすぎて、どこら辺にゲンがいるか分からなくなった。多分お腹か胸の辺りだけど。


「お断りだーっ。取れるもんなら取ってみろっっ」


 パンダ君も怒りモードだ。


「えええぇ。面倒臭いな」


 言葉より早く壁際で影になっていたリョウが襲いかかるが、わたしと結城さんも黙っていない。パンダ君に襲いかかる黒玉を千切ろうと両手を付き入れると今度はリョウの中に身体ごとツプンと取り込まれてしまった。


 リョウドームの中に父も参戦したらしく場面が変わる。純和風の畳の部屋だ。床の間があり、黒檀のテーブルもある。


「ここどこ」


 だが、周りには誰もいない。繋がっていた『くのいち』も切られている。リョウの仕業に違いない。


 皆違う部屋だろうか。探してみよう。


 襖をターンと開けると、壁だった。


 ムッとしたがちゃんと壁か確認して、他の出口をさがす。窓はない。床の間の掛け軸をめくる。押し入れの壁や天袋も点検する。コツコツ叩いたり押したりしながら、さながら忍者屋敷の如くに探索をしていく。どこも動かない。


 次は畳か。と腕まくりをする。黒檀のテーブルを、


「重いわ ! 」


 と突っ込みながら端に寄せ、1枚ずつ畳を剥がそうとして気付いたが、12畳あるタタミが全てくっついていてただの床としてそこにあった。単に面倒くさかったのかも知れないが父の頭の中ではこう思っているのかも知れない。


 さて、天井はと見上げてテーブルを立てれば届くかなと思い、持ってこようとしたらパンダ君の声が聞こえてきた。


「ナギ、ナギ」


 どこだろうと思って声のする方を見つめていると、最初に開けた襖を元に戻す形でパンダ君が現れた。正解は、襖を開けた時に襖に隠れてしまう場所にあったらしい。


「良かった。見つかった」


 心配して来てくれたんだー。と嬉しくなるナギだが、


「早く結城さんの所に戻らないと。攻撃されている」


 え、パンダ君がじゃなくて ? 結城さん単体で攻撃されてる ?


「シャッフルするよー」


 と、どこからか父の声が聞こえ、襖から見えていた景色が変わる。

 入ってみると襖が12枚、左右に6枚ずつ並んでいる細長い部屋だった。


「なんか、この部屋は出口が変わっていく感じ。今そこ、あ、こっちに」


 と言うパンダ君に


「片端から開けてみればいいでしょ。パンダ君そっち」


 左右に別れて端から開けていくことにした。左は1本の梅の木が描かれ、6枚の襖に枝葉を伸ばしている。右は同じように松の木が描かれている。


 どんどん開けて行こうとするが、2枚目を開けると先程の襖は閉まる。12枚のうち、1枚しか開かないらしい。


「さっきから出口の襖にはこいつが居る」


 パンダが指し示す方を見ると絵の中に真っ黒な小鳥がいて、あちこち飛び回っている。隣りへ移動するだけでは無くて、ワープしたりこちらの梅の木に止まったりもする。


「あいつがいる所が出口ね ? 」


 パンダ君だけではここを出るのは無理だろう。でも本来閉じ込めたかったのはわたしでしょう ? 舐めてもらっちゃ困る。

 しばし小鳥を目で追う事10数秒。


 ピシャ、とわたしの『くのいち』で、カメレオンの舌の様に小鳥を捕まえた。

 慌ててパンダ君がとんで行き、襖を開ける前に。


「シャッフル〜」


 あああ、むかつく ! どうしたらいいの。シャッフルを上回るには、開けた途端『くのいち』伸ばして何かに捕まってびよーんと向こうに ?

じゃあ、 パンダ君はどうしよう。

 考え込んだわたしを、ちょいちょいとパンダが引っ張る。

 そして最初にいた部屋に戻る。


「ここはシャッフルされないんだね 。知ってる部屋 ? 」


 何が言いたいの ? 『くのいち』センサーが働いてるなら教えなさいよ。と言いたかったがパンダ君が言いたいことはなんだろうと考える。この部屋には覚えはない。でも最初に入った時に忍者屋敷を連想した。和室だったからでは無い。想い出が残るか残らないかぐらいのちっちゃい頃に、父と詩織さんと3人で忍者屋敷に行った覚えがかすかにある。そこに繋がるのだ。


「あの時は暗いお家に連れて行かれたって思っていたんだけど、カラクリがだんだん飲み込めていって、でも難易度も上がっていって」


 押入れの下の段、壁の下に小さな輪っかがあって。でも小さいから指で摘んでも引っ張れなくて。

 思い出した途端わたしは動いた。黒檀のテーブルに、鉄の棒が隠してあって、先がカギになっているからこの小さい輪っかに引っ掛けて引っ張ると……


「出られた」














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