第 33話 5日目 カブト
こういうの、1番困る。脳が対処できなくてパニックを起こす間さえない。何が起きている ?
「やだなあこれ。切れないかなあ」
ナギ父は呟きながら剪定バサミで命綱である『くのいち』を、前のめりになってチョキチョキしている。
普通そういう事するか ? 落ちたらどうなるんだ ?
「ゲン、くのいちドームだ。」
「リョウの領域ですので長くは持ちません」
「わかっている。立て直しが必要だから」
結城さんの言葉でいつもの くのいちドームに包まれた。ホッと一安心。
結城さんが見えないゲンに質問する。
「ゲン、リョウの本体は先程の黒丸で、君の本体は『くのいち』そのものだね ? だから今、私たちは君に守られているが、君は外側から《《リョウ》の攻撃を受けているんだね ? 」
何となく感じていたが『くのいち』= ゲンの本体そのものなんだ。
「ダークマターとドコアルも一緒 ? 」
と俺。だって気になるんだもの。
「いいえ。ドコアルの中にわたくしやリョウが居て、ダークマターはドコアルが作るエネルギーそのものです」
ドコアル=ゲン=リョウ という図式が成り立つのが不思議だが、人間だって身体が無いとそういう事になるんだろうか?
「リョウはもう
「どういう事か理解は出来ないが、誠さんがそれを信じているって事がかなり危険だな。まず、このリョウの世界を突破するにはどうすればいい ? 」
「解除の言葉を誠さんが発するか、誠さんが戦闘不能になるか、諦めた時ですね」
「かなり難しそうだね」
「あと、逆にわたくしが諦めて核を渡してしまうか」
それに対して皆から否定の言葉が上がる。
「絶対嫌。ゲンがいなくなるの嫌。その後の世界平和のためにも嫌」
父親を人間社会からはみ出させないようにする為とも取れるナギの言葉だ。結城さんも同じく、
「駄目だ。その後が怖い。世界征服を面白いからとやってしまいかねない人に危ないボタンは渡せない」
俺は別方面から反対だ。
「自己犠牲の考え方は嫌い。君がいなくなったら皆が悲しむだろ ?」
ゲンは撫でられたかのように甘えた声で鳴いた。
「ゲンにまるっと包まれているのは分かったけど、白猫ロボットはどこにいるの ? 」
というちょっとした俺の疑問にゲンは笑いながら答える。
「このドームの中では必要無いので、ただ横たわっている状態なのでお見せできません。もちろんわたくしの中に隠されております。でなければリョウから守れません」
「では、戦い方のおさらいをしよう。先程のように『くのいち』で対処する。この方法は華武人君が苦手だが、リョウドームの中ではゲンも苦手 かい ? 」
「はい。気をそらすと剥がされてしまうのでなるべく変化はしたくないんです。結城様とナギ様は、自分達の意志を混ぜ込んだ『くのいち』操作なのでリョウも今の所苦手のようです。あなた達はリョウの中では怪我をしたり死ぬ事は無いのですが、こちらの恐怖心を煽ったり、わたくし達の動きを止めたりして何とか引き剥がそうとしてくるでしょうね」
「じゃあさっきも食べられたり落とされたりしても無事だったって事 ?」
安心したい俺。
「身体に害がないというだけで、心が感じた恐怖は本物です。蟻地獄に体液吸われる可能性も、落とされて叩き付けられる可能性も、全て誠さん次第なのです。それをされて心が無事ならいいんですが」
ひえええええ、となる俺に対して
「その配慮が誠さんに出来るとは思えなくてね。死なないんだからいいじゃん ? とか考えていそうで。
リョウが焦っているということはこちらが逃げ回って時間切れを狙えるかもしれないが、それだけを狙うのは難しいと思う。人数ではこちらに分があるが、誠さんとリョウは長い間一緒に居る間に随分と精神世界の攻撃が上手くなっている。私とナギで華武人君とゲンを守りながらの戦いになるので華武人君にはもう1つの戦い方をお願いしたい。」
今まで自分のふわふわ『くのいち』では戦えない俺は歯がゆい思いをしていた。
「どんな ? !」
と、意気込んで聞く。
「誠さんの負の感情を引き出してもらいたい。誠さんだって、全て脳内で作り出すことは難しいから言葉に出してイメージを強めている」
「砂の底が抜けるって言った時ね」
ナギがいう。そうか、俺だってナギのトラウマの時に影を連想させて出現させた。
「やってみます」
とは答えたものの難しくないか ? あのとっちらかっている感じの人を押し留める言葉はあるのか。
「この場から逃げ出せた後ですが、リョウとこの世界を繋ぐためのロボットを破壊出来ればもう手出しをしてくることはありません」
ゲンの言葉に結城さんが
「殺るか殺られるかだな。ロボットが破壊されても精神体の君達自身は傷つかないだろうが、物騒な話だね。ロボットが破壊されたら拠り所の無くなった君たちは元の世界へ……異次元へと帰るんだね」
「わたくしはそういう事になるんですが、リョウはもうドコアルと繋がっては居ないと思います。だからこそ近くにいたのに分からなかったのです。ロボットが破壊されれば、すなわちそれは彼にとっては緩やかな死です」
結城さんはそれをきいて穏やかに
「それならば、やるのは私の仕事だな」
と言った。
「では、そろそろ解除します」
ゲンの言葉に皆一様に背中合わせになって身構えた。
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