第 32話 5日目 姫
ここはわたしが先に動く。階段を降りていく。
「ゲンは ? どこやったの ? 」
それに対して父はオーバーリアクションで肩を竦めて見せた。
「そんな真っ黒なままじゃなくて、脱ぎなよ、それ」
ここは酸素があるのに何で宇宙服を脱がないのかと言わているみたいだ。が、ここは敵地だ。まだ油断はしない。
「そこ ! やっぱりその黒ボールの中にいるよ」
パンダ君が確信を持った声音で指を差す。
「という事はこの黒丸は何だ ? 」
わたしの後ろから黒丸に近付いた結城さんは『くのいち』のままの掌をグッと押し付けた。すると
いやん。
と言った感じで身をよじる黒丸。一瞬の間のあと、3人で黒丸を千切り、腕を押し込み掻き分け、猛然と掘り始めた。
最初は再生するように戻っていた黒丸だが、観念したらしくザザッと離れて行った。
「ゲン ! 」
パンダ君が中から現れたゲンを抱き上げる。
「大丈夫 ? 体調は ? 」
かいぐりかいぐりしながら身体中をひっくり返しながら見て、最後にゲンの瞳を覗き込むパンダ君。
「大丈夫です。ありがとうございます。もうちょっとで丸裸にされるところでした」
「え、俺たちが 3人分も『くのいち』取っちゃったから ? 」
「いいえ。それは問題ありません。先程襲ってきたリョウが、わたくしの『くのいち』を剥がそうとするのです」
わたし達 3人は父の足元で大きな影になっている先程の黒丸を見た。
「ゲン、念の為に聞くけど、あれは初日に外へ飛び出して来た黒丸とは別物よね ? 」
パンダ君が小石で飛び出させた、1階部分に浮かんでいたあれ。
「いいえ。あれがリョウそのものだった様です。わたくしには触れられないようにしていたらしく気が付きませんでした」
見た目は似ている黒い物体だけれども、ダークマター、くのいち、そしてリョウ。はっきりではないが違いがわかってきた。パンダ君はもっと良く違いが分かっているのだろうか。
「無事に筒は抜くことが出来たんだね ? 」
という結城さんの言葉に、
「抜く必要はないんだよう。もともと40メートルの筒なんていう常識ハズレなものをぶっ刺したから、『コレUFOと同じ物質よね ? 補習は必要ないわね ? 』つって、勝手にバグっただけで、バグを解消させればいいんだから、筒を元々のバネの形に戻しました。見て見て、スリンキー♡」
バネをシャラシャラさせながら凄くご機嫌だ。とにかく、ゲンのUFOは無事修復されて、ダークマターはおうちに帰って行ったのだ。まずは一安心だが今度は違う脅威がそこにいるという事だ。
「リョウは……そこに居る黒丸のことだけど、何でゲンを……この猫ちゃんを襲うのよ」
「あ、そうそうそうだった。その猫持ってかないで。使うから」
カッチーン。ときた。使うからって何 ? !
「あんた達の好きにさせる訳ないでしょお ! ! 」
「え ? 早い者勝ちなの ? だったら僕達の方が先だよ ? 3年前、いやもっと前だったかな ? 」
「早い者勝ちじゃあないっっっっ。何、物みたいに所有しようとしてるのよっっ」
「え ? だってロボットじゃん。生物的金属結合そそる〜」
「駄目 ! 渡さない ! ! 」
「駄目じゃない、必要なの。貰う」
わたしは父を睨みながら後退する。わたしより後ろにいる猫付パンダと結城さんも下がっているのを感じながら、このまま何とか建物の外に出ようと考える。
だが、階段にさえ到達する前に黒丸が一気に膨れ上がり私たちに襲いかかってきて、まるっと包み込まれてしまった。
くのいちドームに包まれた時のようなフラットな何も無い世界にわたしたちは浮いている。『くのいち』武装はしたまま、ちゃんと3人共ゲンと『くのいち』で繋がっている。
「相手はわたくしの『くのいち』を剥がし、無防備になった白猫ロボットを分解し、中の核を取り出すことが目的です。今現在リョウに包まれた状態なので精神攻撃も気を付けなくてはなりません」
ゲンが言っている傍からパンダ君の左手から『くのいち』が引っ張られている。わたしとゲンで引っ張り戻す。頭にきたのでパンダ君と手を繋ぎリョウのやつの『くのいち』を感知し、引っ張ってみる。
すると嫌がる気配が伝わってきた。そしてリョウが召喚したのかこの灰色の世界にラスボスのように父親が登場してきた。風など無いのに白衣をなびかせながら上の方から降りてくる。54歳の中2病か ?
「逃げないでよ。猫ちゃんだけ必要なんだから、他の人は出てって」
父の言葉とともに突然世界が変わり砂地に落とされる。ただの砂地では無い。すり鉢状になった巨大な蟻地獄の巣だ。ああそうだ。こういうの好きでずっと見ていられる人だった。信じられない。
知ってるよ ? もがけばもがくほど早く落ちていってしまうって。でもこの巣の主が底の方から姿を現したら正気でいられないでしょう ?
クワガタにも似た大きな顎で私たち目掛けて砂を掛けてくるんだよ ?
パンダ君なんか、必死に手で砂をかき分けるから真っ先に滑り落ちて行ってる。ゲンはパンダ君の頭の上だ。わたしは何とか止めようとパンダ君の『くのいち』を引っ張る。が、逆に引きずられる。
「ゲンも浮いたり出来ないの ? 」
「この中はリョウの世界でマスターは誠様です。彼が認めない限り浮かべません」
その時、わたしが動き出すより早く結城さんが滑り出した。足からだが、蟻地獄を見すえたままおしりで、手で砂をかいて勢いよく滑っていく。
「結城さん、わたしが ! 」
相手はわたしの父だから。
でも結城さんは彼自身の『くのいち』を変化させ、蟻地獄に到達する時にはキングサイズのベッドに乗ったままぶつかっていった。
そして蓋をする。
蟻地獄の脅威が無くなったのでわたしと猫付パンダは結城さんのベッドに滑り落ちて行った。
「そうか。この世界の戦い方は『くのいち』変化か」
パンダ君は苦手な分野だな。
「大変だあ。砂の底が抜ける ! 」
父親が間の抜けた声を出す。わたしは即座に父目掛けて『くのいち』を伸ばし、ヤツの腰に何重にも巻き付ける。結城さんもベッドを解除して命綱と皆との繋がりを補強してくれる。と同時に、グワッと一気に周りの砂が落ちていく。
命綱につながって、皆ぶら下がりながら、砂諸共に落ちていく蟻地獄を眺めることとなった。
嫌なものを見せられて結城さんと目を見合わせて溜息をつく。パンダ君はどうしているかと見てみると目を白黒させていた。
パンダだけに。
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