第 31話 5日目 カブト
ナギに思いっ切り膝カックンされた。まあ、仕方ないと思う。見えているのに引き寄せられないのだから。
「わたしがやる」
目を瞑り左手をちょっと上げて片手恨めしやのポーズ ?
「何をしている、握れ」
あ、ああ。そういう事か。お姫様がナイトに口付けを許す手のポーズだ。くのいちドームで俺と結城さんが手を繋いだから……
モタモタしていたらナギの目が薄く開き始めた。ビームが出そうで怖いので開き切る前に慌てて手を繋ぐ。
音はしなかったんだがズアアアッとした感じでナギの変身が完了した。いつもの くのいちスタイルだ。
「どうだ ? 」
「どうって、いつも通りです」
特にリボンが増えたとか形が変わった形跡は見当たらない。どこを褒めればいいんだろう。
「バカタレ。髪を切っていつもと違うわたしどう ? と聞いてる訳では無い。ゲンの様子を聞いている」
あ、ああ。そういう事か。
「ゲンそのものが見えるわけじゃないけど、その場所から動けていない。『くのいち』だけ引き寄せた感じ」
「だな。わたしもゲンを引っ張るイメージでやったんだが『くのいち』だけが来た」
なんか最初の頃と一緒でピリピリしたナギを感じる。多分だけど父親に関わると言葉遣いが乱暴になったりイライラしたりする ?
「パンダ君の分も、」
と言った時に俺の携帯が鳴った。結城さんだ。慌てて出ると、
「ナギと電話繋がら無いんだけど、一緒に居る ? 」
「あああああ」
ただの驚きの声だ。くのいち付けてるからナギの携帯は繋がらないのか ?
「いいいいいるん」
居る、と言いたいだけなんだが、慌てるとどうも……
「け、け、け、け、け」
携帯代わりましょうか、と聞きたい。
「お前は妖怪か ! 」
案の定ナギにツッコまれ、携帯をむしり取られた。頭の『くのいち』を外して結城さんとひとしきり話をしたナギはこちらを見て
「昨日はかっこよかったのにな〜」
と溜息をつき、
「結城さんもこっちに来るって。ぜぇぇぇったい、2人だけで中に入っちゃいけない、すぐ行くからって言われた」
「仕事、大丈夫なんですかね ? それになんで電話してきたんだろう」
「虫の知らせって言ってた。多分わたし達がゲンの
「えっ ! 」
思わず声が出て、
「まさか営業マンだと思ってた ? 」
「ごめんなさい、あんなに流暢に製品説明されて、ここで勧められたら絶対買っちゃうなって思ってたんで、思い込みです済みません」
「うーん。結城さんに言ったわけじゃないからまあいいけど。名刺貰わなかった ? 」
「貰った……」
と、答えながらそうか、情報を読み取るツールなのかと改めて認識し、反省する。でも、研究職の人は営業に間違えられると嫌なのかな ? 少なくともナギの反応から結城さんは研究職、ということをを間違えないようにしておこう。
30分程で結城さんはやって来た。待っている間にゲンを引っ張れないかナギ父と連絡取れないかやってみたけど駄目だった。それを踏まえた上で結城さんが俺たち2人にどうしたいかを問う。
「ゲンはもう友達で仲間。困ってたら助けなきゃ。助けられたんだし」
と、ナギは言う。俺はもう言わずもがなだ。
「今までと違って、ゲンの助けは期待できない。誠さんだけでなく、リョウが敵となりうる状況かもしれない」
結城さんの中でナギ父はもう敵認定されているようだ。
「だからまず行くとしても、3人が『くのいち』武装出来なければ、私一人で行くよ。3人か、私1人だ」
前回までは『くのいち』は2人分用意出来るということだった。ゲンが、そう言っていた。今もそうなんだろうかと試してみる。
俺を真ん中に3人で手を繋ぎ、俺の知覚を頼りに結城さんが『くのいち』を引っ張り出し、ナギが俺の分の『くのいち』を引っ張り出してくれる。
結城さんはゲンが丸裸になってないかを俺に聞いてきたが、まだ繋がっている事しか分からない。ゲンが『くのいち』を引っ張り返して来ないのでまあそれで良しとして、問題は俺たちのそれぞれの『くのいち』が薄かったり機能していなかったりするといけないので
「華武人君と手を繋いだまま私だけ中へ入ってみる」
と言う結城さん。念の為に『くのいち』でも繋がってから、結城さんはゆっくりと建物の中に右半身を入れた。1拍置いてからもう半身も入って行く。数秒後、
「地下は分からないが、1階部分はダークマターの気配はない。入っても大丈夫だと思う」
と、中へ入ってみるように言う。
確かに中は台風に吹き荒らされたかのように雑然とはしていたが、重力反転なし。暗くないし黒丸もない。
「筒が抜けたんだろうか」
地下にあるUFOの自動修復装置が作動した ?
「やはりゲンと声は繋がらない ? 」
「いる場所が何となく分かるだけです。呼びかけてもなんとも」
本当に、ゲンに何が起きているか見る事が出来ればいいのに。
1階部分は見た目通り足元を気を付けて歩けば普通に地下の階段まで到達出来た。
そして皆で下を覗き込むと、下の様子が見て取れた。俺だけでなく、見えると小声で言うナギに結城さんも応えている。
前に見た時と地下の様子は変わりなかったが、『くのいち』に覆われていないナギ父の誠さんを始めてみることが出来た。白衣を着ているせいか痩せぎすのいかにも研究者といった風情だ。すぐ近くに黒くて丸い物がある。ちょっと大きめのバランスボールのようなそれは……ゲンの姿が何処にも見えないので嫌な予感がする。
「そんなところに居ないで降りておいでよ」
こちらを振り仰いでナギ父が声をかけてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます