第17話 2日目 カブト

「さてさて、後回しにしていた質問を始めよう。ゲン、君は何しに此処へ来たの」


 結城さんが静かに問いかける。


「一致する言葉が無い場合は近い言葉に変換します。前にも言いましたが私自身知らない事と、管理局が禁止していてルールとしては話せない事があります。また、ペナルティーがあるので話したくないこともあります。わたくしがここに居るのは観光目的です」


「いつから ? どのぐらいまでいるの ? 」


「3年ちょっと前から。だいたいあと 1〜2年は居る予定でした」


「仲間はどのぐらいいるの」


「はっきりとは……ただ、わたくしみたいにこの地球上の生物の形態を取っているのは少ないと思います。この国では 4〜5個体ぐらい」


「地球に危害を及ぼすつもりは無いよね ? 」


「ありえません。する意味がありません。例えてもいいなら、動物園とか水族館へ行って、素敵ー。可愛いー。きれいー。触れ合いたーい。と言いつつその場所を圧縮爆発させるようなものです」


「君がいること自体が害である可能性がゼロではないよね」


「はい。それは否定できません。わたくしはもともと肉体という拠り所のない精神生命体なので、地球に関わるために、この仮の肉体を作り出し、わたくし自身とリンクさせています。」


「ちょっと待って。観光だけなら肉体は必要ないのでは ? 」


「興味があったんです。肉体という縛りに。時間さえ制約される不思議さというか……でも、仮とはいえ肉体を持ってみて不便さを上回る快感があるのに気が付きました」


「それはどんな事 ? 」


「例えば名前が呼ばれること。わたくしたちは個体の形を持っていても繋がっているので名前を持たないんです。後、撫でられるときの波動が素晴らしい。至福の時です」


「本気で猫になりたがっているみたいな感じだね。」


「ええ。あと少しで家猫になれる許可が降りるはずだったのに……残念でなりません。」


 俺は尋問されるゲンが可哀想で抱きとって撫でてあげたくなるのを我慢していた。

 ずっと結城さんが質問し、ゲンがそれに答えてきたが、逆に質問を返してきた。


「誠様は、人間ですよね」


「人間だよ。君たちに精神を乗っ取られて別人になっているのでなければ、変わった部類にいるとは思うけれども人間だよ。なにか不審な点があるんだね ? 」


「UFOを刺した物体が、UFOと同じ物質で出来ていてしかも長さが40メートル、棒状では無く筒状だったことで自動修復装置が働かなかったんです。しかも建物から真下に一気に刺す技術力。偶然では済まされません。それでもわたくし達が人間やその他の生物の体を乗っ取る事が出来ない以上、わたくしが猫の仮の肉体を作り出したように別個体が密かに人間を型どったか、接触を試みたか……」


「待って、待って。お父さん、昔からあんな感じだったけれど、途中から入れ替わってたりする可能性あるの ! ? 」


 慌てたようにナギが確認する。


「いいえ。可能性がゼロでは無いので例にあげましたけれど、人間に成るのは非常に難しいです。家猫を目指すだけでも厳しいのに人間の生活にわたくし達が溶け込めるとは思えません。要するに、人型には成れますけれど、社会生活は無理です。特に家族がいる場合は。となると、わたくし以外の個体が、目的は分かりませんが誠様と接触して誠様を介して攻撃してきた事になります。誠様はペットを飼っていませんでしたか ? 」


「ないない。飼えるとも思えない。金魚でも絶対無理。世話をする事なんか、出来ない人です。実家のおじいちゃんおばあちゃんは犬を飼っていたけど、しめじって名前の犬は数年前に死んじゃっているし、思い当たるような動物はいない」


 ナギが否定する。


「そうだよね、私も覚えがないね。誠さんは生き物と関わるような人じゃ無い」


「では、地中に穴を掘る技術の卓越した誠様が、掘った所がたまたまわたくしのUFOの上だった、となりますね」


 ゲンはビクターの犬みたいに小首を傾げて考え込む。

 結城さんが口を開く。


「おかしいのはそれだけじゃないよね。建物自体が変だ。中身が無い。研究所として機能していない。他に働いている人を見かけたことも無い。最初に会った2人も別会社の人間だったし、とにかく誠さん本人に聞かないことには埒が明かないよね。でも、お給料はちゃんと支払われていたはずだ。姉が喜んでいたからね。おかしい事だらけだ」


「日本では猫やカラスに成るのが良いとされ、建物の下にUFOを配置するのが一般的なのです。だからといってどこでもいい訳ではなく、わたくしも程よい所を見つけたと思ったんですが、ひょっとして罠だったのかもしれないと思い始めました」


 ここで一様に皆黙り込む。


「ダークマターは筒を抜かない限り回収出来ないんですか ? UFO自体を動かせないの ? 」


 俺が質問する。分からないことだらけで話についていけてない気がする。


「UFO動かすには、ダークマターが必要なんです。動力源でもあるので」


 だからこそ筒を抜こうと躍起になっているのか。


「どちらにしろ、誠さんをなるべく早く建物の外に引っ張り出す必要があるね。彼は食事とトイレをどうしているんだろう」


 俺も不思議に思っていた事を結城さんが口にする。


「それたぶん、非常食持ち歩いているんだと思う」


 ナギが面白くなさそうに言葉を出す。


「むかーし、家にいた時に部屋にこもってなにかに夢中になっていて、お腹空きすぎて動けなくなった事があって、それから水分と携帯食を持ち歩いてる。いつ夢中になるか自分でも分からないから、ハット気がついたら動けなくなっていると困るからってリュック背負ってる」


「じゃあトイレは ? 」


 みんなシーンとする中、


「次に建物ん中入ったら踏んじゃうかもってこと ? 」


 絶望的なナギの言葉に


「『くのいち』着けてるから 」


 と、励ます俺。

 気のせいかゲンの目が細くなった。


「ナギのお父さんと繋がりのあるかもしれないゲンの仲間の宇宙人は、見つけられないの ? 」


 俺がまた質問する。


「わたくし達は、繋がっているけれども、個別であるというふうに進化してきました。それは、一つの精神生命体にたくさんの意識があるという事なんですが、お互いに近付いたり接触するのは嫌うので、別個体がどこで何をしているか感知することは出来ません」


 俺にはとても理解できない。






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