第14話 2日目 姫
ゲンをそこに残して 3人は家に帰る事になり、わたしは心底ほっとしていた。建物に潜ることがかなりつらい作業だったのだ。結城さんにバレなくて良かった。
お昼はハンバーガーを買って帰ることになって、何か言いたげなパンダ君に家に帰ってお昼タイムの後に話し合いがあると思うから、言いたいことはそれまで待っててと言っておいた。
たぶん何かあった時用に車2台で行ったんだろう結城さんの車が先に家に着いていて、お湯を沸かしてコーヒー入れ始めていた。
いただきますをして食べ始める。適度に雑談しながらある程度食べたところで待ちきれなくなったのだろう、パンダ君が質問してきた。
「気持ちが萎えちゃったし、相手が逃げ回っているんだから今日は無理なのは分かりますけど、明日も放置ですか ? 何か心配というか不安で」
「それを答える前に、私達が誠さんをどういう風に捉えているか知っておいて欲しいんだ」
そう言って結城さんは説明を始めた。
「まず、本人が嫌がるから今は『ナギ』で通しているけれど、ややこしくなるから本名の『姫』で説明するね。姫のお父さん、草薙 誠さんが私の姉の 佐久間 汐織と再婚したのが23年前、姫が3歳の時だ。姉が18、私が13歳だった。」
パンダ君がちょっと身じろぎする。結城さんが36歳っていうのに驚いたんだろう。すごく若く見える人だから。
「姫はそれはもう可愛くて素直で、小さいのにお客さんに座布団勧めるぐらい気配りの出来る子で、佐久間家でもアイドルになっちゃってね、草薙家と張り合うように姫ちゃん姫ちゃんって可愛がっていてね。それはいい事だと思うんだけれど、それとは別に草薙 姫という人格を尊重し、徐々に距離を取っていかなければならない所を中学生になってもいつまでたっても姫ちゃんで、小学生か、下手したら幼稚園児に対する様な扱いだったからね。じじばばだったらまだしも、私の姉のみならず誠さんもそれだったから。」
可愛いと言われて今度はわたしが身じろぎしてしまった。
「誠さんは、なんというか本当に子供の扱い方が下手で、子供と遊ぶ、子供を遊ばせるという事が出来ない人っだったから、3歳の子供をかまって泣かす、脅かして笑うというふうに、子供で遊ぶ人っだった。その頃から変な人だなあとは思っていたんだけど」
結城さんは思いをめぐらすように言葉を切り、コーヒーを飲んだ。
わたしは結城さんだけに話をさせておきたくなくて続きを話し出した。
「わたしが中学に入ってすぐ、わたしと女の子同士でちょっとトラブルがあって、親はまずはわたし本人とか、相手の子に確認とか話をよく聞く所から始めないといけないと思うんだけど、いろいろすっ飛ばして騒ぎ立てるところから始めちゃって、しかもものすごいモンスター級の騒ぎ立て方で、クラスみんなドン引き。確かにいじめとか嫌がらせはされていたけれど、辛かったけれど、わたしは相手とじっくり話す機会が欲しかった。何よりその子と友達になりたかったもの。」
自分にはなかった大人っぽい顔立ちとかつるつるの肌とか細長い手足とか憧れるものをいっぱい持っていた
でも、わたしの父親とじじばば軍団にせめられて、気がついたら引っ越しをしてしまっていた。そして残されたわたしは微妙な距離感のクラスメイトと 3年間中学校生活を送るはめになった。
「それでもまだ親の愛情は感じられていたし、その後の高校生活は友達にナギって呼んでもらえて楽しかったから、拒絶まではいかなかったんだけど、親元を離れたくて東京の大学にいって、 1人暮らしを始めた時に……」
言葉が詰まった。
「立て続けにストーカー被害にあってね。」
結城さんが続けてくれた。
気を取り直して、わたしはまた話し始める。
「まず、大学に通いだしてからしばらくして講義の時に隣に座っただけの、話をしたことも無い男に目をつけられてどんどん粘着されて、しかも後をつけられたり、郵便受けを開けようとした形跡があったりして、堪らずに警察に相談したの。でもその時は、まあ実害がないから、パトロールしますぐらいの返答しか貰えなくて、住んでいたマンション自体のセキュリティはしっかりしていたから取り敢えず様子見しようと思っていたら、マンションから警察に郵便受けにイタズラしている人がいるって連絡がいって、それがわたしの郵便受けで、ああやっと警察に捕まったと思ったら違う人で、その人は駅でわたしを見かけて気に入ったから後を付けてきて、わたしの郵便受けを開けて個人情報抜き取りたかったらしいんだけど、まあ、その人はすぐ捕まったからいいんだけど、3人目が強烈で、ある日、家に帰ってきたらドアの鍵開けた途端に後ろから羽交い締めにされて、口塞がれて家の中に引きずり込まれて、凄い力で床に押さえつけられて、そのままだったらどうしようもなかったんだけど、たまたま夫婦仲良くコンビニに行こうとした隣りの人達が、私の靴が脱げてドアが開きっぱなしになってるのに気づいて、私の異変にも気づいてくれて事なきを得たの」
早口で、息継ぎはしているが途切れることなく全てを吐き出した。まるで嫌な出来事が数珠つなぎになっていて、途中で区切ると糸が切れて残りがお腹の中に残ってしまうかのように。
そして、出た言葉が戻って来れないように口を固く閉ざす。
黙りこんだわたしのあとを引き継いでまた結城さんが口を開く。
「誠さんが保護者だから呼ばれたんだけど、4ヶ月の間に 3つの相談や事件が起こったことで警察官の 1人が姫の方にも何か問題があったんじゃないかって言ったらしいんだ。有り得ないだろう ? 最後の刑事事件は犯人が同じマンションの住人で、小さくて力が無さそうだから、押し込みに成功したら、後はなんとでもなると思ったって言っているんだよ ? まるっきりの被害者にそんなこと言う神経も分からないけど、誠さんはヘラヘラしながら」
「『そうなんですか〜』だって !! 」
悔しげに力の抜ける父親の言葉を真似る。
嫌なのに思わず出てしまった。
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