第13話 2日目 カブト
そこはかとなく お腹が痛い。
朝ご飯の後にデザートで出してくれた自家製ヨーグルトが美味しくて、ついおかわりをしてしまった。
俺のお腹は乳製品にちょっと弱い。牛乳も 1杯目は平気なのに 2杯目はお腹にくる事が多い。
小学校の頃に給食で余った牛乳を飲んで 5時間目にトイレに駆け込むことが続いて先生に 2本目禁止令が出されたこともある。ただ、体調によっては大丈夫だったりするのでそこまで気にして無かったのだ。
どうしよう。トイレに行きたい訳では無い。
そのうちトイレに行きたくなるかもね ? でも気のせいかもよ ? と、お腹が考えているだけで今トイレに行っても何も出ないだろう。
でも出来ればスッキリしてから行きたい。
などと悶々としているうちに、
「そろそろ行くよ」
と、言われてしまった。
仕方ない。確か休憩所の隣に仮設トイレがあったはず。波が来たらそこのトイレ借りよう。
結城さんは自分の車で行くと言うので、俺はどちらに乗ろうか悩んだけれど、いってみればナギはバディみたいなものだしと思ってナギに乗せてもらう事にした。
まだ梅雨は明けて無いはずだが天気がいい。
駐車場に着くとゲンが出迎えてくれた。
早速軽い準備体操をして『くのいち』を装着する。
「パンダ君、それどうやるの ? 」
と、ナギが聞いてきたが、ふわふわは、やろうと思ってしているわけでは無いので、
「分かりません」
とナギにあちこち撫でられながら答える。
「今日は最初から、繋がって入るわよ」
ゲンに言われて素直に繋がれて三角形を作る。
「今日も1時間ほどで」
「わかっているわよん」
結城さんに見守られながら今日も建物の中に入って行く。
三角形を作ると 1階部分は普通に歩いて行けるのだが、真っ直ぐ進める訳では無いので 5分程はかかる。そして地下。
真っ暗に見える穴の中に入った途端、
「あれ ? 」
と俺は声を上げた。
「どしたん ? 」
「なんかすごく明るい」
ダークマターが無くても電気のついていない地下なんて暗くて当たり前だとおもうのだが、普通に全体がよく見渡せる。
「え ? 何処にいるか見えてるって事 ? 」
そう。今日助けるはずの最後の一人は真ん中の機械の辺りでうろうろしている。
「動きまわってますよ、倒れてないです」
ナギの答えかたからすると彼女は見えてないようだが、黒い人影は元気そうに動き回っているから安心だ。ゲンは、
「捕獲しましょう」
と言って近付いて行く。ナギも続く。
俺は、助けに来ましたよー。という気持ちで近付こうとするのだが、しばらく進むと開いた本がパタンと畳まれるように目の前で空間が閉じ、気が付くと違う場所に居る、という事が続いた。
それでもひたすら救助に向かうのだが『くのいち』を伸ばしてもつかまえられない。昨日は初めてだったし暗くてあまりよく分かって無かっただけかもしれない。でも、何回もあれ ? という事があった。
しかも、モタモタしている間にとうとう波が来た。小波が何回か来て、引いていく。大波が来る前に外へ出たいのだが。申告しようかどうしようか、だんだん汗をかき始めて、切なさが恥を押しのける直前に、
「時間切れね。一旦外へ出るわよ」
ゲンが声をかけてきたーーーーーーーっ
外へ出ると、ガッカリしたそぶりなんか見せない大人対応の結城さんに
「すみません、トイレ行ってきます」
と言って駆け出す俺。まだ走れる状態で良かった。
間に合った。
それにしても、建物の中にいる最後の人はトイレどうしてるんだろうかと、不思議に思う。
さてさて、準備万端整った俺がちょっぴり恥ずかしそうに戻っていくと、
「体調は大丈夫かい ? 無理をしては駄目だよ、二次災害はごめんだからね」
「大丈夫です。腹の中から追い出してきました」
と答える俺の顔つきを見て結城さんはにっこり笑い、ナギの方を向いて、
「もう一度行けるかい ? 」
と声をかけた。
「行ける、行ける」
と答えるナギは、行く気満々なのか、くのいち姿のままだ。
「もう一度、行ってみましょう」
ゲンを先頭にもう一度トライする。心配事が無くなった俺は、次こそ大丈夫だと疑わずに建物に入っていったのだが、結果は先程と変わらずだった。
「休憩しよう。作戦会議も必要かな」
結城さんの提案に誰も異を唱えることなく、『くのいち』を回収してもらい、黙ったままプレハブ小屋に移る。
「ゲン、どういう事か説明が欲しい」
湯気の立つコーヒーに口もつけず、テーブルの上に乗っているゲンを見据えたまま結城さんが静かに言った。
「今日中に終わると思う ? 何か不測の事態が起きた ? 」
「はい。わたくしにとって予想外のことが起きています。ナギ様のお父様は、中で逃げ回っているんです」
やっぱり。
俺があれ ? と思った時も、逃げる素振りだったからだ。
「あのクソ親父 ! わたしは鬼ごっこの鬼か !! 」
ゲンの言葉を聞いた途端、ナギが吐き捨てた。
「ねえ結城さん、もうほっといていいかな ? やつ、建物ん中うろつけるらしいし。」
だがここで今まで知らなかった事柄に俺は慌てた。
「え ? は ? 親父 ? お父さん ??? 」
「そう。中に取り残されているのはナギの父親の誠さん。色々あってあまり関わりになりたくない人なんだけれど、命がかかっている局面でそうも言ってられないからね、出来れば助けたいと思ったんだけど。」
結城さんはちょっと考えこんだ。
「でも、逃げ回っているってどういうことだろう。動けるんだったら彼が 1人で出てくる事は可能なのかい ? 」
結城さんはゲンに問いただす。
「出てくる気が有るなら可能性はゼロでは無いのですが……実はダークマターが噴出してすぐ 3人を救助に向かった時にわたくしの存在に怯えたりせず、素早く行動を起こしてもらえればそのまま助けられたのですが、唯一わたくしと会話をしてくれたナギ様のお父様である誠様が、『姫ちゃんが助けに来ないとここから出ない』と言いだしまして」
「ひいいいいい」
ナギが悲鳴をあげる。ねっとりした男性の声がゲンの口から出てきたからだ。ナギの父親の声だろう。
「最初の二人は保護膜張ったのでいわゆる仮死状態の様なもので長期保存が可能だったんですが、誠さんは『くのいち』だけだったんです。『姫ちゃんが来たの分からないと駄目』『僕だけだと助けに来ないかもしれないから、あの二人もまだここに居なきゃ駄目』ともおっしゃいまして。なので誠様だけ『くのいち』で」
「やだやだ、口真似やめて ! 」
鳥肌たててナギが叫ぶ。
「もうやだ。もうやめる」
「私もそうしたいね。どちらにしろ今日はもう絶対に無理だ」
静かに硬い口調で結城さんが言い切った。
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