第12話 2日目 姫

 わたしはいつも6時前に起きる。


 結城さんはパンをあまり好まないので朝は和食。

 だいたい 7時ぐらいに食べるから 6時ぐらいからお味噌汁作って時間を見ながら鮭を焼いて、キャベツの浅漬けと、昆布の佃煮などを用意する。


 結城さんはわたしが居候で転がり込んだ 7年前までは普通に一人暮らししていたのでなんでも出来る。こだわりも勿論あるので全て教わった。


「自分のやり方でやっていいんだよ」


 と言われた時は、


「それでモヤモヤしてもう1回結城さんがやり直すことになったら、二度手間じゃん。」


 といって、結城さんの掃除の仕方、服のたたみ方、料理の味付けなどを覚えていった。


 もちろん、新しい料理を覚えたり、時短になるような家事の仕方を考えたりはしているし、昔は学生だったけど今は一応仕事をしてるので生活費も入れてる。一人暮らし出来るぐらいは稼いでいるけど追い出されたくないからギリギリを装っている。


「おはようございます」


 結城さんが起きて来る前にパンダ君がひょっこり顔を出した。


 ちょっと意外。起こさなければずっと寝ていそうな感じかと思っていた。そういえば昨日、洗濯物を放ったらかしで寝たでしょう、干しといたからね。と言おうかと思ったが、また恥らわれても面倒なのでやめておいた。


「おはよう。パンダ君、よく眠れた ? 」


「はい。それはもう ! 」


 すごくニコニコしている。そのニコニコが、結城さんが起きてくると倍増した。


「すごい威力ですね、あのベッド ! 」


 結城さんにおはようを言う間さえあたえず、


「あんな風に眠れたの初めてです。こう、ボリュームが絞られる感じのスイッチじゃ無くて、オンオフでパチンパチンと切り替わる感じで寝て起きたんです ! 」


「まあ、疲れもあったんだろうけど、気にいってもらえて良かった。」


 結城さんは柔らかく笑った。


「枕も、自分は高めの枕じゃないと合わないと思っていました。置いてある枕低かったから、クッション使おうかと考えてましたけど、そんな間もなく寝落ちしてました。なんか肩が軽いです」


「……冥利に尽きるねえ」


 そこから、結城さんも火がついてしまってベッドやマットレスだけじゃなく、枕や掛け布団などトータルで扱っている自社製品のあれこれを話し始める。スプリングの善し悪しやら自分に合ったベッドの高さや機能的枕、暖かい掛け布団のラインナップなど。


「朝起きた瞬間から腰が痛くて困ると言っていた男性が、うちのベッドを使って腰の痛みが和らいだと言って喜んでくれてね。腰が沈み込むような布団は使っちゃ駄目だよ、寝返りが打ちにくいからね。あとパジャマと掛け布団の摩擦が大きいとやはり寝返りが打ちにくいね」


「ずっと綿の布団を使っていたご年配の女性が、お孫さんに羽毛布団をプレゼントされて使ったら布団に入ってすぐ体が温まって寝つきが良くなったので、それまで使っていた湯たんぽをミニサイズの熊のキャラクターにして、嬉しそうに用意しているってお孫さんからお礼言われたり……」


「幸いなことにうちの親はまだ必要ないけれど、介護ベッドも扱っているから、試したいんだよね」


 このままじゃ結城さん、ずっとしゃべっていそう。


「自社製品が好きすぎて、うちにベッド 4つもあるのよね。」


 といいながら、わたしは朝ごはんをテーブルに並べ始める。


「そう。ベッドたくさん置きたいから独り身なのに家も買っちゃって」


 結城さんも話しながらキッチンとテーブルを往復する。1つしかないトレイをわたしが使っているからで、そんな 結城さんを見てパンダ君が右往左往する。仕方ないので


「はい、これ持って行って」


 パンダ君用の小どんぶりの大盛りご飯を渡して席に着くように促す。


「食べられない物は無いよね ? 」


 一応聞いてみたが


「大丈夫です。なんでも食べます」


 と答えてきた。笹も ? と、突っ込みたかったがやめておいた。


 いただきますをして食べ始めたが、パンダ君の食べっぷりが面白いと思ったのは結城さんもだったみたいで


「華武人君、まだ成長期 ? 君が食べるのを見ているとすごく嬉しくなるよ。おかず足りる ? 目玉焼きとか海苔とか持ってこようか ? 」


 などと世話を焼きたくなるらしい。


「大丈夫です。朝はこのくらいで」


 という答えに 2人で笑うとパンダ君はキョトンとした。


 身体も大きいし、親元を離れているから一人前のつもりかもしれないが、まだまだひよっ子だね。でもまあ、頼りにはしてるから。


「じゃあ、パンダ君と頑張って来るから」


 と結城さんに言うと、呆れた顔をされた。


「 2人を置いて、仕事にいけると思う ? この緊急事態に ? 私の仕事の心配は、私だけがすればいいんだからそんな事を気にする必要は無い。もちろん、一緒に行くよ。何も出来なくても」


 最後の一言に、そんなつもりで言ったのではないと、わたしは頭をブンブン振った。一緒に来てもらった方が心強い。1番頼りにしている。昔から。


「ではサックりと助けに行きますか。」








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