第9話 1日目 カブト

 ゲンを先頭にナギが次に続き、一番最後に俺が建物の外に出ると心配顔の結城さんが駆け寄ってきた。


「二人とも、大丈夫かい ? 」


 そして、膨れ上がっている俺をみて、目を丸くする。


 そっと担いでいた二人を地面に下ろした。

 ゲンがすべての『くのいち』を回収したので助け出した二人の姿が確認出来るようになる。


「二人一遍にか。でかした」


 結城さんに、ぽんぽんと肩を叩いて労われる。大人に喜ばれると凄く報われた気になって嬉しい。

 そしてすぐさま結城さんは二人のうち年齢が40〜50代であろう人の側に膝をつき、


「すみません、大丈夫ですか。聞こえますか」


 と、肩に手をかけて落ち着いた声音で話しかける。それを見てナギと俺がもう一人の若者の方を介護する。


 意外な事に二人とも直ぐに気が付いた。先程まではピクリともしていなかったのに、普通に立ち上がることが出来たので


「何が起こったか、覚えていますか ? 」


 と結城さんが問うが、研究員のふたりは顔を見合わせている。


「この場所から移動しましょう。皆さん、体調はどんな感じですか ? 」


 結城さんがぐるりと見渡した中には俺も含まれていたので、ついお腹がぐうと鳴る。みんなそれを皮切りにお腹すいていた事を思い出したようで、研究所のふたりに異常ないようならば、先にお腹を落ち着かせようと、取り敢えずは結城さんとナギの車に分譲して食事に行く事になった。誰もお昼ご飯食べていなかったからだ。


 ゲンは食べる必要も寝る必要も無いのでここを動かないというので

 番犬ならぬ番猫としてとどまってもらう。


「ラーメン食べたい」


 という熱烈な俺の要望はすんなり通り、近くのラーメン屋で自己紹介だけ行なって食事になった。


 若い人が半田 燕治えんじさん。雑用のバイト。

 もう一人が山本 翔一しょういちさん。バネの会社にお勤めの人だそうだ。


 皆がラーメンを単品、あるいはライスや餃子のセットで頼む中、俺はチャーシューメン大盛り、ライス大、餃子、替え玉のすべてを皆が食べ終わるタイミングまでに食べきったので、4人から、


「若いねえ」


 と、笑いながら言われた。


「ここからは私が話をするから、二人とも、今日は帰って休みなさい。華武人君、明日は予定ありますか ? 」


 結城さんに聞かれて、特にないと答えると、


「じゃあ良かったら着替えを買っておいたから、うちに泊まるといい。車はナギと一緒に持ちに行くか、明日私が取りにいってもいいし、生活全般の面倒を見るから、明日もまた人助けお願いしたいんだけど、どちらにしても今日はよく休むといいよ」


「わかった。下の部屋使ってもらえばいいんだよね。じゃあ帰ろうパンダ君」


 あんなに食べたのにお金も払ってもらったし、もう今は色々と考える事を手放していたので、ラーメン屋に来た時とおなじナギのジープに乗せてもらって連れていかれることにした。


 置きっぱなしで気になるので、ハローワークに寄ってもらって自分の車に乗ってナギの後について行くことにする。それぞれ車の大きさと中身が合っていない。ナギはさっそうと、でかジープに乗り、俺はまたミチミチと自分の車に収まった。


 ナギに案内されて着いた結城さんの家は案の定大きな家だった。駐車スペースが 4、5台ぶんもある。

 家の大きさもだが、外観にもお金がかかっているオシャレな家だ。

 家の中に招き入れられて中もスッキリ纏まっていてやっぱりオシャレな家だなーと思いながらぼーっとしていると、


「ほいこれ、スリッパ」


 渡された紺のスリッパを履こうとして視線を下げてびっくりした。


「何履いてるんですか ! ? 」


 ナギは一枚歯の下駄を室内で履いていた。しかも歯の高さが10cmぐらいある。


「ああ、これ ? 大丈夫。裏に滑り止め兼床の傷防止、貼ってあるから」


 ひょいっと片足を上げて底を見せてくる。どんだけ体幹凄いんだよ。太極拳を極めた人みたいだ。


「じゃあ、こっち来てくださーい。こちらにゲストルーム その 2 がありまして、ここを使えと。多分」


 ガチャリとドアを開けて


「ここに電気のスイッチがあります」


 パチッと電気がつく。


「あ。やっぱりこの部屋に着替えが置いてある。電気のリモコンはベッドサイドにあるから。ここにもシャワールームはあるけど、お風呂沸かすからそっちに入ってね。後で呼びに来るから。なにか質問は」


「特にはない……けど、シャワーでいいかな。」


 俺としては気を使ったつもりだったがナギは眉を寄せて言った。


「疲れてすぐ寝たいとか ? 」


 疲れてはいたが、さすがにまだ 6時ぐらいだから寝るのは早いかな。


「じゃあ、後で呼びに来るから。」


 と言ってナギは去っていったので、部屋を探索することにした。


 全体的に紺と茶色の配色のシックな部屋だ。天井の無限大みたいな形のライトの他に、間接照明が3ヶ所にあった。

 リモコンで明るくしたり暗くしたり、ベッドの上だけ点けたり、壁際足もとのぽちぽちライトを点けたり、キャビネットの上のまん丸お月様のような明かりを点けたりした。


 次に扉を順に開けていく。

 クローゼットは何も掛けられていなかったが上の棚にタオル類が何点か置かれている。

 トイレはシャワールームの隣。

 テレビの下のキャビネット。おお。なにもない。

 小型冷蔵庫の中にはペットボトル飲料とおやつ類がはいっていた。ポテチって冷やすものだっけ ?


 そして存在感あるベッドの上に畳んで置かれているTシャツとハーフパンツのセット。柔らかな素材で、でもきちんと感がある部屋着。

 袋から出していない手付かずの下着類。数種類ある。細やかな人なんだろうな。結城さん。


 あちこち開けたり閉めたり、点けたり消したりして遊んでる間にお風呂の用意が出来たらしく、ナギが呼びに来た。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る