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 学校は狂乱の坩堝るつぼと化していた。

 校内の至るところで、吐血して死ぬ生徒が現れた。倒れた生徒は各教室ごとに平均して十人弱ほど。多いところではクラスの半分以上が犠牲になった教室もある。さらには生徒だけでなく、教師の中からも被害者が出ていた。

 突然の集団変死に、校内はパニックにおちいった。犠牲者の死に方のむごたらしさもさることながら、その場にいたら自分も同じ目に遭うかもしれないという不安に恐怖を駆り立てられ、無事な者たちは一目散に学校の外へ逃げていく。

 鮮血の金臭かなくささ漂う騒乱の中、佐和子は校舎の昇降口へ駆けていく人の流れに逆らって廊下を歩いていた。そして通りすがった教室の中を覗いては、そこに広がる惨状を目にして満足げに頷いている。

 生存者のほとんどが校舎からいなくなった頃、佐和子はある教室の前で足を止めた。

「あれ、澄香ちゃん?」

「……さ、わこ? 佐和子⁉」

 十の変死体が転がる二年E組の教室に、澄香がいた。地べたにあひる座りし、頭を抱えてガタガタと震えていた澄香だったが、佐和子の姿を認めると安堵の表情を浮かべる。

「無事だったのね、よかった……!」

「うん。澄香ちゃんは、えっと、何してるの?」

「その……腰が抜けちゃって」

 恥ずかしそうに頬を赤らめる澄香だったが、すぐに差し迫った面差おもざしに戻る。

「それより早く逃げなきゃ。ごめん佐和子、立ち上がるの手伝って」

「逃げる? なんで?」

「なんでって、このままここにいたら私たちも死ぬかもしれないじゃない! 危険なウイルス的な何かが蔓延してるのかも……。今は大丈夫だけど、私たちもいつ同じ目に遭うか分からない。だから、ひとまず校外に出よう!」

 佐和子は、不安がっている澄香をなだめた。

「落ち着いて。澄香ちゃんは大丈夫。死なないから、焦らなくていいよ」

「佐和子、気休めはありがたいけど、大丈夫かどうかなんて分からないから」

「ううん、私には分かるんだ」

「え?」

 怪訝けげんな眼差しの澄香に、佐和子は秘密を打ち明けた。

「これ、私がやったことだから」

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