他人の醜聞を自己のアイデンティティ確立のために利用する少女と、そのネタにされた周囲の人たちの物語。
少し不思議な現代ものの掌編です。ギリシャ神話の神々に擬えるかたちで語られる、人のエゴや碌でもなさが魅力のお話。
主な視点保持者は上記の噂好きの少女なのですが、作品そのものの実質的な主人公はまた別というか、復讐の女神にあたる人物がいわゆる「狂言回し」のような形で活躍する作品です。
登場人物が好きです。揃いも揃ってみんなクズ、それも地味に生々しくクズなところが大好き。
本当に同意できないというか思い入れたくないというか、どこを見渡しても肩入れしたいと思える人間がいない。なによりイヤなのが(=物語として魅力的なのが)彼女ら彼らの作中における言動、敵対者に剥き出しの悪意をぶつけることへの躊躇のなさです。
普通ブレーキがかかるっていうか、言ってることの九割がたが自分に返ってくるような内容を、でも平然と100%敵対者のせいにしてしまえるこの、あの、何? 棚上げどころではないその姿勢に、もう本当に見ていて「うおおお」ってなりました。文章越しに流し込まれる嫌悪感の心地よさ。
なんなら狂言回し的な立ち位置にいる主人公、彼女が一番最悪という感覚まであって、つまりは誰ひとり「正解」の立ち位置にいない。
復讐という後ろ暗い情念の発露を主題にしているだけあって、安易な勧善懲悪でお茶を濁すことのない、その姿勢の誠実さが嬉しい作品でした。