第十六章 お預けの仕返し【R】

  第十六章 おあずけの仕返しかえ


 真夜中、日付が変わった頃にけいはやって来た。近所迷惑きんじょめいわくにならないようインターホンを押さずに、玄関の扉をコンコンとたたいた。その配慮はいりょ仕方しかたれていると思わせた。

 私が扉を開けると仕事終わりのけいが立っていた。真っ黒な私服を着て、バーに立っている時と変わらない色合いだった。こういう時『お帰り。お疲れ様。』そんな言葉をかけてもいいところなのかもしれないが、私はこちらを選んだ。

 「いらっしゃい。」

 「ただいま。」

 けいの方はそう言った。他人のふところに入るのが上手うまい男だと思った。

 「シャワーびるでしょ?」

 私はそう言った。相手が仕事から帰って来たばかりの男なら、お腹が空いてないか聞いて夜食を用意するものだろうが、私はそれをしない。

 「うん。」

 けいは何を考えているのか分からない顔でうなずいた。


 けいがシャワーをびている間、リビングのサイドテーブルの上でまっていた郵便物ゆうびんぶつ整理せいりをした。大抵たいていらないチラシとハガキだったが、一通だけ私宛の手紙があった。病院からで、健診けんしんを受けに来いという内容だった。それも読むだけ読んで捨てた。どこも悪くない。だから病院なんて行く必要がない。それが私の見解けんあいだった。


 「何してるの?」

 シャワーを浴び終えたけいがビリビリ破って捨てられた手紙を見て言った。

 「別に。」

 私はそう答えた。本当にたいしたことはない。

 「ふーん。」

 けいは髪をタオルでかわかしながら興味ない振りをして言ったが、目は破られた手紙を見ていた。

 「けい。」

 私はらすためにそう名前を呼んで、あつ胸板むないたに身をゆだねた。

 「部屋に行こう。」

 けいはもう手紙に興味きょうみはなかった。


 部屋に入るとけい躊躇ためらわずにタオルを取った。体に自信じしんがあるからできるのだとも思ったが、実のところこの男は何も考えていなかった。私に全裸ぜんらを見られてずかしいという概念がいねんは持ち合わせていないのだ。

 きたえていないとは言っていたが、筋肉質きんにくしつ均整きんせいのとれたいい体をしていた。大抵たいていの人間は脂肪しぼうぎ落とされてかたすぎたり、逆に筋肉量きんにくりょうが少なくてやわらかすぎたりするものだ。私は適度てきどに肉が付き、弾力だんりょくのあるこういう野性味やせいみのある体が好きだった。つくられた体ではなく生きているなかで自然にけずり出されて出来上がった体。そういうところが良かった。


 「小夜さよ。」

 けいはベッドの上に上がると貪るようにキスをした。

 私も『けい』と名前を呼び返そうとして止めた。

 「露木つゆきけいって本名?」

 「本名だよ。どうして?」

 「別に。」

 私はけいが嘘をついていると思った。

 「身元が知りたい?そんなに大事?結婚するわけでもないでしょ?」

 けいが私の首筋に赤い跡を残しながら言った。

 男に恋愛感情を抱いている本気の女ならば傷ついて涙を流すか、クズな男だと憤慨ふんがいしただろうが、私はそうではなかった。『そう。その通り。』そう思った。私は今夜を楽しむためにこの男を招き入れた。しばられるのも干渉かんしょうされるのも御免ごめんだった。自由でいるのが一番だった。私は大切なことを思い出した。


 「それもそうか。」

 私がそう吹っ切れたようにつぶやくと、けいが押し倒して来た。

 「今日は最後までヤラせて。」

 けいあやしい目つきそう言った。私はけいのためにボタンをはずし、前を開けた。すぐに上着から何からがされ、けいの手が体の上をった。何かを確かめるように体の隅々すみずみを這い、その温かい手にれられるたびに花のつぼみが開くように、私の体もじわじわと開いていった。


 けいの手は足の方へって行くと、再び太ももの内側をつたって登って帰って来た。

「今日はここをめてみようかな。」

 けいはそう言って、クリトリスをコリコリと押した。そこは性感帯せいかんたい密集みっしゅうしていて、押されると痙攣けいれんしたようにピクンピクンと体が動いた。何度もこすられると、背中はり返り、こしあしみだらにひらいた。

 「感じやすいんだ?」

 けいは私の反応はんのうを楽しんでいるかのようにそう言うと、さらに強く、しごくようにクリトリスを指でこすった。密集みっしゅうする神経しんけい刺激しげきされ、体がゾクゾクとうずいた。いて来るこしをベッドにたたきつけながら、はしたなくバタバタと動く足を閉じようとした。

 けいはもがく私を嬉々ききとして見ていた。まるで捕まえた獲物えものを押さえつけてもてあそんでいるねこのような目つきだった。


 性的興奮状態せいてきこうふんじょうたいが続き、私の中はれていた。愛液あいえきは足をバタつかせるたびにあふれ出して来たが、それでもけいはまだ嬉々ききとしてクリトリスをいじるのをめなかった。私の身悶みもだえる姿に興奮こうふんしているようにも見えた。


 「ねえ、そろそろ入れて。」

 クリトリスを刺激しげきされて体の奥がうずいて仕方しかたなかったが、イクことはできなかった。

 「どこに?」

 けいは優しそうな顔で意地悪いじわるくそう言った。

 「金曜の夜、おあずらわせたのを忘れた?」

 けいに持っていた。指先ゆびさきに力を入れると一層いっそう強くさぶった。私の体が反応はんのうして足が大きく開いた。


 「もうれているね。」

 けいはそう言ってゆびいずみの入り口までうごかした。指先ゆびさきれただけで体が欲しがってうずいた。私が身じろぎして足を動かすと、けいがゆっくり指を中に入れた。その瞬間しゅんかん思わず声がれた。

 「あっ。」

 「気持ちいい?」

 「うん。」

 けいの指がゆっくり中をいた。子宮しきゅうおくがキュンキュンと収縮しゅうしゅくし、けいの指をくわえこもうと動き出したのが分かった。けれどけいの指は奥まで入って来ようとしなかった。私のこしはじれったくなって小刻こきざみにれていた。

 「こしれている。らされてつらい?」

 けいが足を広げてこしを上下に動かすみだらな姿態したいながめながら言った。


 「らすのは良くないよね?」

 けいは私の耳元まで顔を近づけるとそう言って指をいた。何をするのかと思って顔を上げると、けい体勢たいせいを変え、私の足を広げてこしを押さえつけると挿入そうにゅうした。挿入そうにゅうされた瞬間しゅんかんたされる感覚かんかくがあった。その快感かいかんを味わっている様子をけいが見つめていた。


 「動いていい?」

 「うん。」

 けいは私の上におおかぶさり、動き出した。私は手足をしがみつくようにけいの背中にからめ、みずかこしを突き上げて深くつながろうとした。ゆっくりと奥までかれるとじわじわとしびれるような快感かいかんおぼえた。

 「もっと動いていい?」

 「うん。」

 そう答えるとけいはげしくこしを動かし、息をあらくした。私はき上げて来る快感かいかんふるえながら、甘美かんびな声を上げていた。


 「小夜さよ、外にまで聞こえる。」

 そう言ってけいが口をふさぐようにキスをした。それでも再びくちびるはなれると、甘い声であえいだ。せて来る快楽かいらくに突き動かされ、自分の意志いしではどうにもならなかった。そもそも理性りせいはどこかに飛んでしまっていた。ただ目の前にいる男のもたらす快楽かいらくを味わっていた。

 けいの方も夢中むちゅうになって体を動かしていた。れ合うはだあつくなり、接合部分せつごうぶぶんが大きく膨張ぼうちょうしていた。

 「イク。」

 けい恍惚こうこつとした表情でそう小さな声をらした。私の中でけいはイった。

 私の上におおかぶさっていたけいは横にズレるとそのまま仰向あおむけになって寝た。


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