13.発明します
魔力はこの世界のどこにでも存在し、放出されればまた空気中に溶け、世界を巡り、どこかの魔力溜まりに溜まる、と言われている。
その魔力は、人の身体の中にも一定量存在するが、魔法として使う事が出来る人間は一握りしかいない。なぜなら、魔力には属性があり、人が持つ魔力は言うなれば無属性だからだ。
無属性の魔力をいくら放出しても、そこから何かが生まれる事はない。
魔法を使える人間というのは、無属性の魔力を体内で変換し、別の魔力へと変える事が出来る人間という事。
だから、魔法を使えない人々は魔石を使う。
魔石は、各属性の魔力溜まりに溜まった魔力が結晶化した物だが、人の魔力で魔石を使おうとしても、岩の隙間から流れる程度の水や、小さな種火、土団子、隙間風くらいのものしか出すことは出来ない。
魔石を使うには、別の属性の魔石が居る。
たとえば、火の魔石に風の魔石を使えば火は大きくなるし、火の魔石に水の魔石を添わせれば魔石は火を出さずに、ただ温かくなるだけの石になる、といった具合に。そうして魔石を組み合わせて作られるのが、魔道具であり、魔石の主な使い道となっている。
そんな高価な魔石を使った魔道具が、平民に流通されているか、というと、はっきり言えば、金持ちしか持っていないのが現状だ。
どこの国も、一番高いのは火と水の魔石であり、土は鉄や金、銀などの取れる鉱山で取れやすいため、一番安価で、二番目に安いのが風の魔石。
風の魔石は土ほどではないが、そこそこ取れやすい。風の通り道と呼ばれる、強風の吹く崖や谷に行けば、その壁にキラリと光る緑の石を見つける事が出来る。もちろん、どの石も取るのも命がけだ。その分、相応の値段になってしまう。
水の魔石は水源の豊富なアデルトハイム国では取れやすい部類に入るが、魔石はあればあるほど、もしもの時の助けになる。
この国で余った水の魔石は、火の国とも言われる南部のシルラーン国から、火の魔石と交換する取引にも使われる事もあって、一定量を国が買い取っているのだ。
他国も同じように民から魔石を買い取っているだろう。
そのため、市場に出回る魔石の値段が安くなる事は滅多にない。
その分、市場に出回る比較的安価な魔道具は使い捨てが多い。
平民に売られる魔石は麦粒のようなサイズのものがほとんどで、そんな小さな魔石は砕けやすいし、一度使えば砂になってしまう程度の魔力しかないからだ。
魔石というのは、その魔力を全て失うと同時に砂のように崩れ落ちて土に返ってしまうものなので、大きな魔石は使い切る前に魔力を補充するのが常識になっている。
だが、魔力溜まりというのは本来、人が立ち入れない場所に発生している事が多い。そのため、魔力を補充するのも命がけになり、結果、いつまで経っても魔石は高いままになるという訳だ。
「そんな魔力溜まりの中で、一番人が死ぬ可能性が高いのが、火と水の魔力溜まりだと言われている」
「そ、そうなんだぁ……」
伯父と父の二人によってされた講義のような説明を、セルディは呆けたまま聞いていた。
講義が開催された場所は伯父の店兼家だ。
セルディは、魔石が出たらお金儲けできる。という安易な発想で動いたが、結果としては命の危険に晒されることになってしまった。
それで、ガスマスクと酸素ボンベ、つまり自給式呼吸器でも作れないかと思って伯父に投資を願い出た。
風の魔石を使って出来ないだろうかと、これも安易に思ったのだ。
しかし、そもそもお前は勉強が足りない、と講義を受ける羽目になってしまった。
「えーっと、はい! ガルド先生!」
「誰が先生だ。なんだ?」
「なんで水の魔力溜まりも危険なんですか!」
水源に出来るって言うけれど、そこは足が付かないのだろうか。
セルディの疑問に答えたのは父だった。
「水の魔力溜まりが出来るのは、基本的に滝壺だ」
「あー……、たきつぼ……」
この世界にはガスマスクがないのと同じく、酸素ボンベもシュノーケルもない。
(肺活量がすごい人だったとしても、運が悪ければ死ぬよね!!)
なにより水圧が怖い。
それは海底火山での魔石採掘も同じだが、セルディが狙っているのは噴火によって崩れ落ち、海流によって流れ着いた魔石なので、深い場所に潜る事はない……だろう。たぶん。
(侵攻しに来た軍の人間が、わざわざ海の深い場所まで潜って火の魔石を拾っていたとは思えないし……)
しかし、それを探すのにも、あんな硫化水素が充満していると思われる洞窟には入れない。するとしても、それなりの装備が必要だ。
あの状態ではとても人が入る事は出来ないだろう。
でも、そうなると、敵国はどうやってあそこから侵入したのか、という話になる。
セルディは一晩考えてみた。
あの嘆きの洞窟は、|海食洞(かいしょくどう)になっているのではないか、と。
前世の記憶で見た、波によって削られた神秘的な洞窟の事だ。
見ていないのでわからないが、恐らく、洞窟内の空気を入れ替えられる程の大きさの穴が空いていないため、噴き出している硫化水素が人体に影響を及ぼすほど溜まってしまっているのだ。
(助かった人も居るのは、あの洞窟の道がちょっと傾斜になっていたからよね……)
硫化水素は空気よりも重いので、下へ下へと溜まっていく。
だから、奥まで行かなければ濃度はそれほど濃くはない。
死んだ人たちは高濃度の硫化水素を浴び、呼吸困難や頭痛、視覚障害を起こして、助けを求めて入口に戻ろうとしていた途中で死んだのだろう。
その途中で死んでしまった人達を見て、結果として、呪われた洞窟となってしまった。
だが、この硫化水素が溜まってしまっている状態は、数年後にはなくなると思われる。
壁は海に面しているし、波によって削られている洞窟だ。海水が入る穴はこれからどんどん広がっていく。
敵軍が侵入してくる未来が本当にあるとするなら、あと数年後にはその壁は波によって大きく削り取られ、空いた穴から空気が入れ替えられる事によって硫化水素も薄まり、人や小舟程度なら通れるようになる。
敵国はきっと、海側からその広がった穴を見つけたのだろう、とセルディは予想した。
(怖すぎ!!)
セルディは自分の想像に震えあがった。
一刻も早く資金を手に入れ、防衛だけでも出来るようにならなければ。
セルディは二人の教師に向かって手を上げた。
「えーっと、魔石を使った発明をするにはお金が足りないって事で正解ですか!」
「ま、簡単に言えばそうだな」
ガックシ。
セルディは項垂れた。
でもここで負ける訳にはいかない。
「えーっとえーっと、じゃあ、魔石を使わない、井戸から水を汲む道具とかはどうですか!」
「ほお?」
伯父の目が、とりあえず言ってみろ。と言っている。
「こういう形で、中がこうなってて、で、これを動かす事によって水が上に引っ張られて……」
セルディが思いついたのは水汲みポンプ。
うろ覚えだが、構造は割と簡単だ。
呼び水の事さえちゃんと理解していれば、出来る、はず。
セルディは紙に絵を描きながら、しどろもどろに説明をした。
「なるほどなぁ……。それは面白いかもしれねぇ」
「え、ほんと!?」
長いダメ出しを食らった後だったので、少しでも興味を持ってもらえたことにセルディは喜んだ。
「平民は水の魔石なんて使えねぇからな。井戸から水を汲むのは毎日大変だし、これなら非力なヤツでも使えるから需要もありそうだ」
「じゃあ!」
「とりあえず、これを作るのには投資してやる」
「やったぁ!!」
セルディは跳ねるように立ち上がった。
まだ売れるかはわからないが、一歩進んだ事には間違いない。
(よーし、しばらく魔石は置いといて、ちょっと不便だなって思ってる事が改善できそうなものを作ろう!)
次は何がいいだろうか。
セルディの頭に浮かぶのは、前世で普通に使われていた品の数々。
ただ、作れるかどうかの話になるとまた別なので、作り方を覚えているものを思い出さなければならない。
「しかし、こんな発想をどこで……」
「忘れた!!」
不可解そうな父の言葉を途中で遮り、セルディは全力で答えた。
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