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「そういえば貴方は戦争の経験がありましたね。どうなんですか、戦争というものは」

「俺か? 俺はあの時はまだ一般兵に過ぎなかったが……恐ろしくてたまらねぇな、戦争ってやつは」

 シャツにまで浮き出ている筋骨隆々としたそのたくましい体を、軽く身震いさせるクリス。

 クリス・マッキンロー将軍補佐官は、勇猛果敢に敵に攻め込み戦果を上げ、今の地位まで上り詰めた人物だ。ピースベイク将軍の右腕で、信頼も厚い。

 現状の軍では他国の侵入を防ぐというよりかは、王国の治安を維持する組織となっており、若返りが進んでいる今彼のような戦争経験者は貴重な人材である。

 そんな彼ですら、戦争は恐ろしくてたまらないというのか。

 アルドレドは少し眉をひそめた。

「貴方のような兵士でさえ、戦争というのは恐ろしいものですか」

「戦争ではな、何が起こるか分からない。さっきまで仲良く話していた友人が目の前で斬り捨てられるなんてことはザラだ。尊敬してた上司がなぶり殺しにされることもな。だがそれを嘆く暇もない」

 クリスは昔を思い出すように目を閉じ、上を向いた。

 彼は時々、懐かしむようにこういう動作をすることがある。ただ単純に記憶を探っているのか、感傷に浸っているのかは分からないが。

「アル、お前は自分が主人公だと思うかい」

「……どういう意味です?」

「生きている限り、絶対的な主人公は自分だ。自分で息を吸い、吐き、生きているんだからな。だがそれはあくまでも自分視点でしかない。世界から見れば、俺たちはただの脇役でしかない。自分は主人公だから死なない、そう思っている奴が何人も無様な死を遂げるのが戦争だ」

 脇役。クリスは自分を、あるいは全ての人間をそう形容する。

 当たり前のように人が死んでいく戦争の過程で、彼の価値観は後ろ向きに形成されていったのか。

 顎に短く生えている髭を撫でながらクリスは続ける。

「これから何が起こるかは分からんが、十分に気をつけろよアル。人は、死んだら死ぬんだぜ」

「そんなこと分かっています。貴方に言われなくても、この胸に刻んでいますから」 

「そうか……そのせいで胸がいつまでたっても小さいままなんだな」

「やかましいですよ、風穴空けられたいんですか?」

 アルドレドは白い頬を赤く染めながら、勢いよくブーツでクリスの腹を蹴る。彼女としてはそれなりの力を込めたつもりだが、鍛え上げられた腹筋に阻まれ、彼にダメージを与えることはできなかった。

 クリスは豪快に笑いながら、アルドレドの頭をポンポンと叩いて部屋を出ていく。

 やはり彼にはまだまだ敵いそうにないなと、会議室に残された金髪の貧乳美女は思った。

「それにしても、主人公……ですか」

 先程の会話の中で出てきた、意味深な単語について考え始める。

 物語の中心人物たる、主人公。

 この世界が一つの物語なのだとしたら、自分たちのような脇役だけでは当然成り立たない。

 必ずどこかに、主人公がいるはずなのだ。この世界を、この世界たらしめる人間が。この渦の中心に立つ人間が。

 では、一体この世界の主人公とはどのような人物が相応しいのか。

 彼女の脳、いやこの国の人間全てに深く刻まれた記憶と記録。そこから、ある一人の人間が浮かび上がる。

 そう、まさしく主人公とは、彼のような人材を指すのではないだろうか。

 かつての戦争に散った、あの英雄のような――

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