8
翌日。ギルドルグはユウのビンタで目を覚ました。
「あっ……痛い……」
「おはようギル。なんだかキョウスケさんが話があるそうよ。早く下に来て頂戴」
右頬をさすりながら彼は上体を起こした。意識が覚醒してくるにつれて、だんだんと左頬にも痛みを感じ始めてきた。
まさか両方に平手打ちを食らわされたのか。出会って数日の男になんて真似を。というか結局ギルというあだ名は固定になってしまったのか。
ギルドルグはブツクサ言いながら、部屋に備えてあった新しい服装に着替えて一階へと足を運んだ。
彼は基本的に服装に無頓着であるため、服装は動きやすさを優先されて決められる。ただ服装を選ぶのは彼ではなくキョウスケであるために、時々値段だけで決めたような凄まじいものが備わっているときもある。今回は一般的なパーカーと厚めの素材で出来た、少し長めのズボンであったが。
そんなズボンの裾を引きずりながら、彼は一階へ欠伸を嚙み締めながら降りていく。
この建物は一階の入り口にキョウスケ個人が経営する武器屋があり、その窓口が魔法石採取の依頼窓口を兼ねている。さらにその奥には食堂兼、会議室が存在する。二十名ほどが座ることができるが、今日はユウとゼルフィユ、そしてキョウスケのみが座っていた。
キョウスケが最奥、二人はキョウスケと対面する形で座っていたため、とりあえずギルドルグも二人の真ん中の椅子に腰を下ろした。
「さてギルドルグ」
「あーなんだよ。俺は依頼を片付けてきてまだ寝足りないんだっつの。朝食を出せ朝食を」
「霧厳山脈で、永遠の秘宝を探してこい」
ギルドルグの頭が完全に覚醒した。キョウスケの顔を見つめるも、彼が冗談を言っているようには全く見えない。いつもふざけたような笑みをして依頼を知らせるキョウスケが、口元を微かにも動かさない。
何年もギルドルグは彼を通して依頼を受けてきたが、こんなことは初めてだった。
「どういうことだ」
「昨日お前さんたちが上に行った直後だ。顔を隠した依頼人が来て、とある依頼をしていったのさ。ライオンハート、永遠の秘宝の調査をな」
三人とも言葉を失った。すぐに行き先が見つかって運が良かった、どころの騒ぎではなかったからだ。
あまりにも、都合がよすぎる。ご都合主義にもほどがある。流れに身を任せよと、昨日出会った預言者は言った。だがここまであからさまに、その流れは彼らを誘導していくものなのだろうか。
永遠の秘宝へと。ライオンハートへと。
しかし問題は依頼された場所そのものにあった。
「よりにもよって霧厳山脈か……一体なんで、よりにもよってまたそこの依頼がウチに来る? あそこは国境警備軍の管轄だろ。軍に任せればいい話じゃねぇか」
霧厳山脈はエルハイムとオスゲルニアとの国境線ともなっている、非常に広大な山脈だ。峰の平均標高が高く、標高が高いところでは未だに、この異常気象で雪が降り続いている。
さらに問題は、名前の通り深い霧に覆われているということだ。多くの宝狩人が霧厳山脈の依頼に挑み、そして失敗した。失敗の確率が高いとまでは言えないが、けして軽く見ることは出来ない難易度だ。
ギルドルグが失敗した依頼は報酬が高く、金に目がくらんだキョウスケが二つ返事で受けてしまった依頼だった。武器と金のことになると思考があからさまに乱れるのはキョウスケの悪い癖である。
それに今から依頼主に失敗を告げるのも嫌だというのに、失敗した地へもう一度赴けなど、普通なら断っている依頼だ。
そう、普通なら。
「さぁ? そういうことを聞く前に出て行かれたからな。だが前金と一緒に、こいつを置いていった」
キョウスケは机の下から何かを取り出し、三人に見えるような位置に置いた。
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