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「お前らが全然聞いてこねぇから知ってのことかと思ったぜ……。まぁいいや、依頼制ってのはな」
「私たちが悪いとでも言いたげね。自分の失敗を人に擦り付けるなんて恥ずかしくないのかしら。幻滅しました。実家に帰らせていただきます」
「あ、うん。とりあえず話聞いてくれるかな」
このままいくと話が全く進まない。というか何で皆俺の話を聞いてくれないんだろ。
ギルドルグはやれやれと溜息をついて語りだす。
「基本街の掲示板なんかに張り出されてる魔法石の入手依頼をこなしたり、自分で魔法石を見つけて市場に出すのが宝狩人だ」
「それは知ってる」
「落ち着けって。しかし名を上げた奴は、ギルドに入っていることが珍しくない。何故なら依頼客も成功率が高く、達成速度が速い狩人に頼みたいんだからな。そんな宝狩人が集まるギルドに入っていれば報酬がいい仕事も入ってくる」
ユウが何かに引っかかったように、ギルドルグに問いかける。
「最初の頃は依頼ももらえずに大変そうね」
「仕事がなかなか回ってこなくとも、ギルド全員でそれを補うから飢える心配もねぇ。つまりはギルドに入ってる奴は漏れなく『依頼制』の宝狩人と呼ばれるのさ。まぁ一人で依頼制の仕事をこなす奴もいるそうだが、俺にはそんな真似できないね」
「前々から思ってたんだけどよお」
今度はゼルフィユが質問し始める。
「魔法石はそのへんで適当に探すのか? 場所も分からないなら、探しようがねぇだろ」
「新しく魔法石が出現すると、そいつから光が溢れ出るのさ。その光がデカいほど内包魔力も多い。光を目撃するか、その情報が入ってきた奴が宝狩人に依頼するのさ。純性の魔法石は、そのへんで売ってる魔法石より遥かに美しく、魔力の応用が利く。単なる観賞用、戦闘用、装飾品に求めるお客様もいらっしゃるぜ」
「あぁ、売られている魔法石は生活用品だものね」
ユウは合点がいったように頷いた。
あくまで基礎的な知識を伝えたはずなのだが、まさかこの二人は知らなかったのか。若干この先が不安になってしまうギルドルグだった。
「そんでこのギルドルグは宝狩人ギルド、『ダークウィンド』の稼ぎ頭よ!」
キョウスケが、調子良さげにギルドルグと肩を組む。ギルドルグとよく似た髪色をする彼だが、ややくせっ毛なようで、ギルドルグの頬にチクチク髪が刺さっている。
顔をしかめるギルドルグであったが、そんなことはお構いなしにキョウスケは続けた。
「難易度が高い依頼も大抵こなしちまうおかげで、このあたりのギルドじゃ目の敵よ。ただそいつらにはこいつほどの実力がねぇから指くわえてみてるしかねぇんだけどな!」
「おいおいどうしたそんな褒めんなよ。お前が褒めるなんざ本当に世界でも終わるのかな」
「まぁ間違って受けちまった高難易度の依頼をこいつに全部回してるだけだけど……ごめんなんでもない」
「テメェそうだったのか! 今の発言でこれまでの信頼関係がパァだからな! 次のやばい依頼はテメェも連れてくからな!」
肩を組んでキスでもしそうな距離だったキョウスケを遠ざけて蹴りを入れる。
完全に予想外の告白である。このギルドにいるうちは知りたくなかった情報がそこにはあった。
「仕方ないじゃない。実力があるんだから過程なんてどうでもいいでしょ。キョウスケさんからしたら要らない道具が思ったより高値で売れたみたいな、そんな感じよ」
「お前も何なの? 褒めてんのか喧嘩売ってんのかハッキリしてくれる?」
何で出会って間もない女にプライドをずたずたにされなければならないのか。男だったら顔面に拳を食らわせていたところだ。
そして退屈そうにゼルフィユが欠伸を噛み締めながら言う。
「とりあえず、疲れたし泊まる場所を探さねぇか? 日も完全に落ちちまったし」
「それならうちの二階から上の宿を使ってくれて構わんよ。ダークウィンド関係者しか泊まれない宿だ。部屋にはシャワーもついてるし、なかなか設備はいいぜ?」
「んじゃあ空いてる部屋をユウとゼルフィユが使えよ。俺は俺の部屋で寝る」
「銀貨一枚になりやす」
「おいおいキョウスケそれはあまりにもだろ。俺の知り合いということで無料で泊まらせてくれよ」
「ギルドルグ、お前の宿泊料金がだよ」
「お前稼ぎ頭に向かって扱い厳しくない!?」
冗談だよ、とキョウスケは軽快に笑う。
疲れたようにため息をつき、キョウスケが立っているカウンターの裏側に向かうギルドルグ。二人も彼の後ろにつき、木で作られた階段を踏みしめた。
ダークウィンドの建物は一階の武器屋も含め四階まで存在し、ギルドルグの部屋は三階に設けられている。ユウとゼルフィユは、二階で向かい合うちょうど空いていた部屋に入ることになった。
「確かにいい部屋ね。私の家とそう変わりはないかも」
「おいおいユウ、いくらなんでも言い過ぎじゃねぇか? 流石にあの家とは……ってデカいじゃねぇか喧嘩売ってんのか!」
「うるせぇよ! 黙ってもう寝ろって!」
彼らを部屋まで案内し、ようやくギルドルグは一人になる。
やっと落ち着いたと言わんばかりに、彼は階段で深く息をついた。
階段を上った先、目の前に彼の愛すべき部屋はある。ギィィと歴史を感じる音を立てながら扉を開ける。ベッドと机、ソファしかない質素な部屋だが、長い間暮らしてきた、言わば故郷のような部屋だ。
一度は戻れないことを覚悟した。
だがギルドルグ・アルグファストは無事、この寮、この部屋に帰還した。
その事実に全身を安堵が包み、彼はとてつもない眠気に誘われた。
昨日もレブセレムの宿屋で休んではいるものの、やはり自分の今の家より安らぐ場所は他にない。
「とりあえず寝て……明日以降は明日考えるか」
服を脱ぎ捨て、そのままベッドに倒れこむ。
太陽の朗らかな匂いがし、母のぬくもりさえ感じるフカフカのベッドである。彼はまどろみ、しばしの安息に身を横たえた。
しかし運命はそんな彼をねぎらおうとはせず、それどころか鞭打つことになるのである。
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