6

 ギルドルグたちは二人の家で準備をし、レブセレムからやや南東にあるノーランドの街へと『機関車』で向かった。

 機関車は魔法石の魔力を使って動かしている。

 詳細を乗客全員が理解してはいないが、使わない選択肢を取るにはあまりに機関車は早く、便利すぎる代物だ。

 まだまだ全ての街に行けはしないものの、以前に比べて国の交通事情は格段に便利になったものだ。大きく黒い鉄の塊が、人間よりもはるかに速いスピードで力強く荒野を駆ける姿は圧巻である。

 そしてそんな機関車を使って、暗くなり始めた頃に彼ら三人はノーランドの街へと到着した。

 レブセレムの街よりもさらに大きく、規模や交通の面から、エルハイム王国西部の中心と言っても過言ではない。

 まずギルドルグが、ノーランドの駅からすぐのところにある『ダークウインド』という看板を掲げている店に入る。すると店主らしき男に、ギルドルグは声をかけられた。

「おぉーギルドルグじゃねぇか! まだ生きてやがったかこの野郎」

「お前の軽口聞いてホッとしたのは初めてだぜキョウスケ……」

 カウンターに肘をつきながら薄ら笑いを浮かべる男に、ギルドルグは苦笑しながら近づく。

 ゼルフィユとユウも遅れて中に入るや否や、部屋の壁を見て感嘆の声を上げた。広がっていたのは、剣や槍などのあらゆる種類の武器であり、どれもが誇り高そうに光沢を放っていた。ここ『ダークウィンド』は、どうやら武器屋のようである。

 そして赤いボサボサの髪を軽く掻きながら、キョウスケと呼ばれた男は今度は不審そうな顔を浮かべた。

「その顔を見る限り、今回の依頼は失敗か? お前にしちゃ珍しいな」

「意味わかんねぇ魔法を使う奴がいたんだよ。ぶっちゃけた話、ここに立ってる理由すらわかんねぇ」

 はぁぁぁと、キョウスケの方が深いため息をついた。

 ガッカリしたような溜息ではなく、驚嘆したような溜息だ。心底興味を刺激されたように、ギルドルグを見る。

「おいおい、お前がそこまで言う相手とはなかなかじゃねぇの? んで、さっきから商品凝視してるそこのお二人さんは一体誰だい」

 ギルドルグが後ろを向くと、剣や槍を手に取り、まじまじと凝視する二人の姿があった。欲しいものが目の前にあるときの、子どものそれとそっくりである。

 ゼルフィユは使い辛そうに武器を軽く振り回していたが、ユウは刀身が他のものよりやや反っている、見慣れない剣を興味深そうに見つめていた。やや青みがさした刀身は、ユウの瞳と髪色によく映えており、凛としたその姿は誰よりもこの剣が似合うだろうと、ギルドルグは直感で感じた。

「っほぉぉぉぉ嬢ちゃん。よく似合うじゃねぇかよ! よけりゃ名前なんか教えてくれねぇか?」

「……ユウ・ヨグレよ」

「ユウちゃんか。いい名前だよ、親御さんには感謝しねぇとな」

 キョウスケは愉快そうに笑ったが、ユウはピクリとも表情を変えなかった。表現に乏しい奴である。

 ただその代わりに、彼女はじっと目線を剣へと向けていた。刀身を嘗め回すようにじっくりと観察している。

「嬢ちゃんはお目が高い。その剣はネヴィアゲートの更に東、失われた極東の国からの遺品だ。それぞれ作り方や材料、そして込められた意思も違う。ただ材料だけが未だ分からなくてな、再現は難しいんだよ。ただ発見されたものはどいつもこいつも一級品だ。嬢ちゃんが持ってるそれも、銘からしてその品格ってもんが分かる」

「……『月影』」

 剣に刻まれた銘の通り、まさに月の姿を映したかのような美しい刀身は、見る者を魅了するようだった。

 しばらくギルドルグは呆けたように彼女を見つめていたが、やがて思い出したようにキョウスケの方を向きなおす。

「依頼を受けて一週間ってとこか。どうだい宝狩人諸君の様子は」

「そうさな、別に難しい依頼を受けてるわけじゃねぇし、上々だな。今滞ってる依頼は別にないと思うぜ」

「ねぇ、貴方の言っていた『依頼制』の宝狩人って、一体どういうことなの」

 月影を元の場所に返すと、ユウはカウンターの二人に声をかけた。ゼルフィユはまだ武器を見回っている。

 ギルドルグは一瞬無表情になり、ポンと自分の額を叩いた。

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