第15話 流れ流れて。
佐藤さん達と楽しい時間を過ごした翌日。
私と友咲は放課後、当たり前のように天馬寺に向かっていた。
ほんの数日で、コロポックルという存在は、私と友咲の中にどっぷり入ってきていた。
コロポックルという存在を知ってから、頭に入ってくる情報の大渋滞。
今まで知らずにいた人間進化の分かれ道。
初めこそ頭が拒絶していたものの、圧倒的な情報と目の前の現実に、異世界でも飛び込んだような感覚は残るものの、現実離れしたようなこの新しい現実が、私は楽しくなっていた。
「昨日、家を建てる話をしてたけど、どうやって建てるんだろ?」
友咲の疑問は最もだった。
家を建てるなんて、基礎工事からやったとしても、冬までに終わるようには思えない。
斑鳩さんが住んで家は、ツリーハウスの地上版みたいな感じで、家であることは確かだけど、台風なんか来たら潰されてしまいそうな感じだ。
コロポックルには当たり前な造りなのかもしれないが、あれでは家としては心もとない。
一体、どんな家を作ろうとしているのか?
ネットやテレビで、山を買い自給自足を定年後に始めてた人なんかを見たりするけど、そういう人たちでさえ、何年もかけてログハウスを作ったりしていた。
いくらログハウスの地上版とは言っても、そんな簡単に出来るはずがない。
頭の中でああでもないこうでもないと、答えの出ない考え事をぐるぐると巡らせる。
「え…」
天馬寺に着くと、隣にいる友咲の口から、ポトッと声が落ちた。
友咲の視線の先を追いかけると、そこには立派な家の骨組みが完成していた。
「何これ…」
あまりに現実離れした光景。
思わず(この世界に魔法なんてあったっけ?)なんて、非常識な考えが浮かぶ。
それくらい、目の前の光景が現実として入ってこない。
あまりに立派な家の骨組みなのだ。
友咲は、テンション高く佐藤さん達に近づいて行く。何やら会話を交わした後、骨組みに近づいて行ききゃあきゃあ言いながら骨組みを眺めて回った。
佐藤さん…と知らないおじさんは、何やら自慢気にそんな友咲の様子を見ていた。
私も佐藤さんに近づき、知らないおじさんにも挨拶をした。
知らないおじさんは、佐々木さんと言うらしい。
よく分からないが弟さん、だそうだ。
頭が混乱している私は、弟さんが誰なのかイマイチ理解が追いついていなかったが、楽しそうに家の骨組みを眺めてる友咲の空気に当てられて、身体がうずうずしてしまい、結局誘惑に負けて家の骨組みを見に友咲に混ざった。
六角形に立てられた柱。
屋根になる場所には、横に梁が渡っている。
瓦を乗せるのか、藁を被せるのか、別の何かを屋根にするのか、今のところ私には分からなかったけれど、思っていた以上にちゃんと家だ。
「凄い…!家だ…」
本当にその一言に尽きる。というか、それ以外の言葉が出てこない。
想像して見てほしい。昨日まで何も無かった場所に、一日にして六角形の立派な家の骨組みが建っている。
部屋の中の作りは、一部屋になるのか分けるのか、今の状態では分からないけど、それでも壁と屋根があったら完成に見える。
コロポックルの技術は、現代技術を超えているんじゃないだろうか?
それとも、本当に魔法でも使ったんだろうか?
何度も言うけれど、現実の光景が現実として頭に入ってこないのだ。
あまりに現実離れな光景に、脳での情報処理が追いつかない。
だからこそ、何度でも骨組みを見て確認してしまう。
同じところを何度も何度も見て、触って確認しても現実味がない。
「昨日は何も無いサラッサラの状態だったのに…」
信じられない、と柱に触る度に思う。
柱も、木の幹をそのまま立てたというものじゃない。
ちゃんと柱になっている。
すべすべの、あの柱だ。
「どうやってここまで1日で建てられるの…?」
私の呟きに、友咲が笑顔で「凄いよね〜!魔法みたいだよね〜!!」と満面の笑顔で応える。
そんな私と友咲を見て、佐藤さんも弟…さん?も、やってやったぜと言わんばかりのドヤ顔でこちらを見ている。
佐藤さんと知り合ってから、本当に驚くことばかりだ。
コロポックルが人族コロポックル科という事も、基本生活は自給自足の物々交換で成立する事も、当たり前に生活に根差してる電化製品が魔法の道具に感じる事も。
私たちが当たり前に使っている携帯電話や交通電子マネーは、佐藤さんからすると魔法らしい。
コロポックルの社会では、そんな便利な道具はなく、移動は徒歩か現金での交通機関利用。
その現金だって、必要最低限でしか持ってない。
山奥や秘境の民族の生活のようだ。
「だからこそ、そのギャップが楽しい」
私は心底ワクワクしていた。
最初こそ、関わりたくないと思ったものの、知れば知るほど2つの生活の違いが、ゾクゾクするほど私の心を掻き回した。
コロポックルの生活を、現代っ子の私がしたらどうなるだろう?
キャンプのような感じだろうか?
それとも、田舎で自給自足生活みたいなものだろうか?
想像するだけでもワクワクが止まらない。
もっと知りたい。
身近になった秘境民族のような生活をしていたコロポックルという存在に、私は一気に惹き込まれた。
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