第14話 山あり谷あり、谷あり谷あり。

翌日、朝から天気はどんよりしていた。天気予報では午後から雨が降るらしい。

それを聞いて、僕は今日中に外壁と屋根に使う板材の下処理を終わらせる事に決めた。


朝食を食べてすぐ、佐々木さんの弟さんが来る前から僕は1人で作業を始めた。

昨日のうちに下処理を終わらせた板は、万が一の為に屋根のある場所に移動させて貰った。

それでも残り半分くらいの板が残っている。


「雨…午前中いっぱいはもってくれるといいけどなぁ」

天気への不安を抱えたまま、僕は兎に角手を動かし続けた。


程なくして、佐々木さんが来た。てっきり弟さんが来ると思っていた僕は驚いたが、手伝って貰えるのであれば誰であっても有難い。

「弟は急な取引相手との打ち合わせで、ちょっと出てるから」

昨日と同じく白い歯を見せて、佐々木さんが少年のような笑顔を見せた。


作業が始まると、少年の様な笑顔は消える。

空模様が怪しいこともあり、佐々木さんも僕も黙々と作業の手を進めていく。

10時に住職さんの奥さんがお茶を準備してくれたけど、僕たちは「後で頂きます」と返事をしたものの、お茶が冷めてもそれを飲む時間は取れなかった。


ポツ…


ついに空から雨粒が落ちてきた。

時間はお昼少し前。

今日中に終わらせるつもりでいた板材は、残すところ10数枚といったところで作業出来なくなってしまった。

しかも今日作業したものは完全に塗料が乾いていない為、家の材料として使うのには不安がある。

順調と思っていた新生活の基盤、新しい家作りは2日目で早くも足止めを食らってしまった。


ポツポツと小降りだった雨は、お昼ご飯を食べる頃には本降りに変わった。

今日はもう外での作業は無理だときめこんだ僕らは、ご飯をゆっくり食べ温かいお茶を啜りながら、佐々木さんの愛妻っぷりをたんまり聞かされていた。

流石の僕も、口から砂を吐きそうになったのは、また別の話。


佐々木さんの奥さんラブな話を聞かされて1時間半は過ぎたであろう時に、斑鳩さんが一つの提案をしてくれた。

やる事があるから、と早々に逃げ…席を外した住職さん以外は、佐々木さんの甘過ぎる話に少々疲れ始めていたので、斑鳩さんの話の切り替えは蜘蛛の糸だった。


「今日はもう作業できねぇべ?んだば、食器でも買ってきたらいいんでねぇべか?」


食器に関しては、よく洗った大きめの葉っぱを代用しようと思っていたのだけど、今は100円ショップとかいう安く何でも手に入るお店が出来てるそうで、必要な日用品の大体はそこで買えるらしい。

本当に便利な世の中になったものだ。

北海道にいた時は、1番近所で焼き物を作っている人から、失敗作でいらないと言われたものを貰って来たり、遠くの日用雑貨を取り扱っている所まで行き購入していた。

上京して来て間もない僕は、焼き物を作っているご近所さんも、日用雑貨を取り扱っているお店も知らない。


100円で色々揃えられるなんて、なんて素敵なお店だろう!


「早速すぐに行きましょう!」

意気込む僕に、佐々木さんが一言ポツンと言った。

「この大雨の中、歩いていくの?」

確かにそうだ。

僕も斑鳩さんも車の免許なんて持っていない。

佐々木さんは、いくら雨だと言っても会社でやる事が無いわけではない。

住職さんの奥さんも、免許は持っていないらしく持っているのは住職さんだけ。

その住職さんはやる事があると、席を外したまま。


「嗚呼あああああああ!!!!」

僕の喉から嘆きを含んだ大きなため息混じりの声が盛大に漏れた。

お昼の天気予報では、今日から暫く天気が崩れると言っていた。

外での作業が出来ない上に、車の免許を持っていない為に全てのことが滞ってしまった。

木材で出来る箸やスプーン、フォークなどの小物、簡単な小皿などは昨夜の夕食後、住職さんご家族と談笑しながら作ってしまった。

と言っても、そちらも防水やら防腐剤やらを吹きかけてあるので、すぐには使えないのだけど。

木材で作ったものは自分用でも構わないが、お客さん用にはそれなりの食器を使いたい。一般的には安物と思われる100円ショップの食器でも、僕には十分高価なものだ。お客さん用として使うのにはとてもいい。


人生山あり谷ありとはいうけれど、新生活早々僕の気持ちは空を覆う曇天と、降り落ちる大粒の雨のように地に落ちた。

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