第13話 新生活の始まり。
一花さんと友咲さん、斑鳩さんとお茶を飲みながら談笑した後日。
僕は早速斑鳩さんが教えてくれた木材のお店に足を運んだ。
「こんにちはー!斑鳩さんの紹介で来ました、佐藤と言いますー!」
広い木工会社に僕の声が響く。
大きな機械が動いているので、結構大きな声を出したつもりでも、響いた声はそこまで大きくなかった。
その証拠に誰1人として動きを止めない。
「すーみーまーせーんッ!!!」
お腹に力を入れて、もう一度声を上げる。
1番近くにいた人に僕の声が届いたらしい。
首に巻いたタオルで額の汗を拭いながら近付いて来た。
「あんた誰?」
僕よりもかなりの声量で声を掛けられた。
このくらいの声を出さないと聞こえないのか…
なるほど、と頷きつつ僕は大きく息を吸い「僕、斑鳩さんの紹介でー」と言い掛けたところで、近づいて来た男性に「そんなでかい声じゃなくても聞こえる」と笑われた。
近づいて来た男性は、タオルで手を拭いてから僕に向かって手を差し出し「斑鳩さんから話は聞いてるよ」と言いニカッと白い歯を見せた。
工房では機械の音がうるさいから…と、その男性に連れられて僕らは場所を事務所に移した。
男性は名刺なんて持ってないと笑いながら、佐々木だと名乗ってくれた。
佐々木さんは一見無骨そうに見えるけれど、真っ白な歯を見せて笑う姿は昔のガキ大将っぽい。
大きな手は、職人の手らしくゴツゴツしていて浅黒い。働き者の手だとすぐに分かる。
貰える木材については、先に斑鳩さんが連絡してくれていたらしいけど、昨日の今日でどうしてそんなに早く話が進められたのか不思議だ。
佐々木さんはケイタイデンワとかいう文明の利器を使えば話は簡単だと笑っていたけど、僕にはそのケイタイデンワという文明の利器がどんな物なのか分からなかった。
兎に角、斑鳩さんのお陰で事はスムーズに運び、今日中に必要な材木はお寺に持って行けそうだった。
佐々木さんの会社の人が午前中に、大きなトラックで必要な木材をお寺の敷地まで運んでくれ、午後から木材に必要な工具を貸してくれる話になったので、お昼前に一旦別れて僕はパン屋さんに来ていた。
埃っぽい僕の身体を見て、パン屋さんは小さな掃除機を持ってきた。
僕が北海道で使っていたような、コンセントを使う物じゃなくもっと小さい掃除機だ。何でもハンディタイプとか言うらしい。
イートインコーナーで、淹れて貰ったコーヒーを飲む。砂糖を多めにしてっ貰ったから、疲れた身体に沁みていく感じがした。
木材でも1人で運べない様な大きなものは、吊るしてトラックに乗せたりしたけど、それ以外の工芸品に使えそうな材木や、家具に使えそうな木材は自分でトラックに運び込んだから、それなりに重労働だった。
手が空いた佐々木さんの会社の人達も、僕が斑鳩さんの知り合いと分かると、皆率先して手伝ってくれた。
斑鳩さんの人徳に感謝だなぁ…
僕はパン屋さんに昨日の事、今日のこと、工芸品を作る話や家を冬になるまでに作らなければいけない事を話した。
お昼時で店内はちょっと混んでいたけど、お店の常連さんらしいお客さんも時々僕の話に耳を傾け、談笑しながら帰って行った。
午後になって、お寺に戻った僕を佐々木さんの会社の人が既に待っていた。
慌てて駆け寄ると、佐々木さんに似た男性がその場に響くような大きな声で話しかけてきた。
どうやら佐々木さんの弟さんらしい。佐々木さんに責任を持って対応してこいと言われたんだとか。
恐縮しながらも、僕は弟さんに工具の使い方を教えて貰い、工具の貸し出し期間を決め、おおきな柱になる木材から一緒に着手した。
大きな柱は全部で13本。表面の皮を剥いで正方形になる様に切り出す。
元々乾燥させてあった木材だから、歪みの心配はない。
吊るして立てた木材を機械で地面に打ち込む。こんなことは北海道ではしなかった。
しなかったと言うより、大掛かり過ぎて出来なかった。
もっと地道な作業になるし、時間も掛かると思ってたのに僕の想像を遥かに超えて、家の大まかな骨組みは出来上がってしまった。
そのことに驚く僕に、佐々木さんの弟さんはコロポックル式の家の建て方の方が、地震などの災害の時に怖いと苦笑いしていたけど、僕は普通の人間が建てる家の作り方を知らないから、どこが不安なのか理解出来なかった。
骨組みが出来上がったら、今度は壁だ。壁は防腐剤や防カビ剤、防水などを板に施していく。
今日の作業は壁の下準備で終わりそうだ。
何十枚もの板一つ一つに、防腐剤、防カビ剤、防水を施していく。
ここは丁寧に作業しないと後々大変なことになるから、時間が掛かっても構わない。
寧ろ時間を掛けて作業したい部分だ。
作業終わりが見えて来た頃、一花さんたちが訪ねてきた。
夢中になっていたから分からなかったけど、もう陽が傾いて辺りが暗くなり始めていた。
「昨日の今日なのに、もう家の骨組みが出来てる〜!」
友咲さんが歓声を上げた。
やっぱり、僕らの方法で家を建てるやり方は作業が早くて驚くみたいだ。
一花さんも骨組みされた家の周りをじっくり見て回っている。
時々、触っても大丈夫か確認されたけど、そんなに不思議なんだろうか…
日も暮れて来たし、一花さんたちも来てくれたことだからと、本日の作業はここで終わりにすることにした。
弟さんは明日もお手伝いに来るからと言い残し、作業終わりと共に帰ってしまった。
女子高生と一緒なのはむず痒いそうだ。
僕にはよく分からないけど。
放課後に少しだけ様子を見に来たという一花さんたちとほんのひと時、談笑を楽しんだ僕は家が出来るまで住職さんの家を間借りすることになり、夜は住職さん一家と斑鳩さんと5人で食卓を囲み、あっという間な1日は終わっていった。
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