新生活。

第12話 新しい我が家。

一花さんと友咲さんが僕らをという括りで納得したところで、その場の空気が解散の流れに傾いた。

僕としては、もう少し話していたかったけれど、一花さんと友咲さんは明日も学校に行かなければならず、そろそろ帰らないと家族も心配するから…と立ち上がった。


「また遊びに来るね!」

友咲さんが笑顔で手を振った。一花さんも「また」と照れたような笑顔で手を振った。


2人の帰る姿を見送りながら、隣に並ぶ斑鳩さんがブツブツと何やら考え始めた。

首を傾げる僕に、斑鳩さんが明日から取り掛かる僕の家の材料について、色々説明してくれた。

まず、木材は住職さんの知り合いに、材木屋さんがいて不要な木材を無料で譲ってくれるらしい。斑鳩さんの家や家具も、その材木屋さんから譲って貰ったものを利用して作ったそうだ。ただ、布団の材料は手に入れるのが難しいらしく、斑鳩さんも暫くの間は住職さんから布団を借り、畑で育てた作物を売りお金を貯めて揃えたそうだ。

「鶏の抜け羽は頂けないんでしょうか?」


北海道にいた時は、鶏の抜け羽を丁寧に洗い、それを繋いだ蓮の葉で挟んで布団にしていた。繊維を織り込む布は、コロポックルの世界ではなかなか手に入れるのは難しい。作れない訳では無いが、繊維質な植物の採取からしなければならず、時間も手間も掛かり過ぎて他の事が全く出来なくなってしまうから、番のコロポックルの片割れが冬の間の手仕事感覚でやる事が殆どだった。独り身コロポックルには、縁遠い代物だ。


「鶏の抜け羽?んー…どうだべ?住職さんに聞いてみねぇと分かんねぇけんども」

斑鳩さんの時は家が建つまでは住職さんの家に間借りして、家が建った後は用意が出来るまで使ってくれと、布団を貸してくれたそう。

そういえば、ここに来た時に住職さんから部屋は用意してあると言われたっけ。


「お嬢さん方は帰ったのかな?」

カランコロンと下駄の小気味よい音を響かせて、住職さんが顔を出した。

「あ、住職さん!ちょうど良いところに!」

布団の事で鶏の抜け羽を譲って欲しかった僕は、訪ねて来た住職さんの両手をギュッと握った。

不思議そうな顔の住職さんに、斑鳩さんがコロポックルが良く使う布団について説明してくれた。

「なるほど。蓮の葉に鶏の抜け羽を…」

顎に手を当てながら、住職さんはふむふむと人間の世界とは少し違う文化の話を興味深そうに聞いていた。

「ダメですか…?」

なかなか返答が返って来ない事に少し不安を覚えた僕は、何かを考えていた住職さんに声を掛けた。

「ダメではないよ、抜け羽で良いならいくらでも使って。それで…そのお手製の布団に使うのは蓮ではなく、余り布ではダメなのかな?」

思い掛け無い住職さんの有難い提案に、僕は思わず大きな声を出してしまった。

「そんな高級な物、頂いてしまっていいんですか?!」

斑鳩さんはお金が貯まるまで住職さんから布団を借り、その後は貯めたお金で布団を買ったと聞いている。

余り布を頂けて、鶏の抜け羽も頂けるのであれタダも当然で素敵な布団を手に入れることが出来る。

元は蓮布団を使っていた斑鳩さんが、状況きっかけに普通の綿を使った暖かな布団を使う様になったのを知った住職さんは、僕が蓮布団で寝るのは何かしらの不便があると感じたようだった。

「上京して色々ありましたけど、一花さんに出会えてから良い人たちとのご縁が出来た気がします…」

じんわり目頭が熱くなる。

そんな僕の顔を見て「佐藤さんの人徳だねぇ」と住職さんはニコニコしていた。


そうして翌日からのやる事が色々決まった。

僕と斑鳩さんが家の建築をしている間、住職さんの奥さんが布団のカバーになる部分を縫ってくれる事になった。

何でも、住職さんから話を聞いた奥さんが面白そうだから、自分も居住建設及び日用品制作に関わりたいとの事で、布団作りをお願いする運びとなった。

代わりに…というか、お礼も含め僕は奥さんにお願いされた木工細工をプレゼントする事で話が纏まった。

斑鳩さんの家にある家具に施された細工を見て、素敵な工芸品が欲しいと思っていたそうだ。


工芸品といえば、北海道にはアイヌ民族という民族が有名で、アイヌ民族が作った工芸品は今ではとても高値で売買されるんだそう。

その話を聞いて僕は家を建てた後の冬の手仕事を思いついた。


僕が作れる工芸品がどのくらいの値段で売れるのかは分からないけど、もし買ってれる人がいるのなら、畑仕事が出来ない冬の間は木工制作をして金策をしよう。

販売する場所や方法は、後日また皆に相談してみればいい。


「よーし、頑張るぞ~!」

暗くなり始めたお寺の敷地に、僕の声が響いた。

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