第11話 隠れた部族がいたみたいです。

帰宅する前に私と友咲は歩き過ぎて火照った足を休めるために、先住コロポックルの斑鳩さんのお宅にお邪魔することになった。

私も友咲も子どもの頃より背が伸びて、歩幅も大きくなったけれど体力は低下していたようだ。小学生だった頃遠足で歩いた道を歩いて来たのに、ふくらはぎはパンパンだし足の裏も悲鳴をあげている。


「子どもの時は全然疲れなかったのに、成長した今の方が足が痛いなんてヘンだよね~」

ふくらはぎを自分でマッサージしながら、クスクスと友咲が笑った。友咲の言葉に頷きながら、子どもと言うのは無駄に体力が有り余っているのかもしれない…と私も考えていた。

「今日はお風呂でしっかりマッサージして、ケアした方が良さそうね」

筋肉痛になりそうだと、私も苦笑い混じりに返す。


中学生の時も高校生になった今も、私も友咲も帰宅部で運動とはかなり遠い所で生活している。久しぶりのウォーキングはそんな運動不足な私と友咲に、筋肉痛という嬉しくないプレゼントをしてくれることだろう。


斑鳩さんの家はとても質素で簡単な作りをしているように見えたけれど、台風にも耐えられるほどの強度を持っているそうだ。

「普段お客さんなんて来ねぇもんだがら、茶碗は住職さんに借りて来たんだ」

そう言って斑鳩さんが出してくれたお茶は、今まで飲んだお茶のどれよりもおいしいお茶だった。


「んで、佐藤さんはこれからここに住むんだな」

フローリングに座布団を敷いた部屋で、円卓を囲む形で座った私たちを前にする形で、斑鳩さんが座りながら佐藤さんに声を掛ける。

フローリングというと聞こえは良いが、有名な妖怪アニメのツリーハウスのような床を想像してもらった方が正しいかもしれない。部屋の中に置いてある家具は、必要最低限しか無くそれも全て手作りのようで、民芸品のようなちょっと凝った彫り物が施されている分、妖怪のツリーハウスよりもおしゃれさを纏っている。


「住職さんも優しい方でしたが、昨日一花さんに出会っていなかったら本当に今頃どうなっていたか…」

斑鳩さんの質問に肯定の意を示しながら、佐藤さんが今までのことを思い出したのかズズッと鼻を啜った。最初から親切心があった訳じゃない私としては、そんなに感謝されると居心地が悪い。本当は変人がいると思って、全力ダッシュしようと思っていたのだから。

「いや…ホントもうやめようよ、その話」

謙遜でもなんでもなく、本当にバツが悪いからやめて欲しいだけなのに、この場にいる私以外の全員が「謙遜しなくても」と声を揃える。


(謙遜じゃないんだけど、全てを説明し直す必要も…ないかな)


全員の中で「一花は優しい人」というところで落ち着いているのなら、わざわざそれを「本当は嫌な人だった」と上書きする必要性はない。世の中知らなくても良いことだってある。

自分の中で納得した私は、それ以上何も言わず笑って誤魔化すことにした。


しばらくの間、佐藤さんの山あり谷ありな旅話に耳を傾けていると、住職の奥さんがケーキを買って差し入れてくれた。斑鳩さんが淹れてくれた美味しいお茶と、差し入れされた美味しいケーキを食べながら、私と友咲はずっと気になっていたコロポックルの生活について2人に色々教えてもらった。


コロポックルが人族コロポックル科ということは、佐藤さんに教えて貰ったから知っているけれど他のことは何1つ知らない。

そもそも、コロポックルという科目があったことだって、佐藤さんと出会ったから知ることが出来た事実で、多分…いやほぼ100パーセントその事実を知ってる人はいないと思う。

人類は猿から進化し知恵を付け、技術を発展させ長い年月を掛けて今に至る…と言うのが、現代の私たちが学び知る一般論で、そこにはコロポックル科として分かれた種族がいる事実は無い。

私たちが知らない、学校では習わない別の人類進化論があるようだ。


佐藤さんたちコロポックルは、私たちが知るコロポックルとは違って、人間と殆ど変わらないらしい。

敢えて違いを挙げるとすれば、コロポックルは自給自足の民だという事。文明の利器などは無く、大昔の人類のように全て自分たちの力で生活している。

電気やガスなどは無く、火を使って明かりを得て水は湧き水を使う。食べ物も畑を耕して実りを待ったり、自然の恵みで賄っている。

「聞けば聞くほど凄い生活だね~」

感心している友咲に、私も大きく頷く。

文明的に考えたら、弥生時代くらいになりそうだ。

「それでも昨今は、だいぶ人間の発明した機械を使ってっからなぁ、便利なもんだで」

湯呑みを触りながら斑鳩さんが呟く。

昔は竹を切り倒し、節を活かして湯呑みの代わりにしていたそうだが、現在では人間社会にある食器が使われている。

料理に使うような鍋やフライパンも、割と最近生活に取り入れられたものらしい。それまでは、石を焼きその熱で炒めたり葉っぱで素材を包み、焚き火の熱を利用して蒸し料理を作ったり。

聞けば聞くほど文明発展と掛け離れた生活だ。何故同じように文明発展しなかったのか、全く分からない。

「海外の隠れた部族みたい…」

佐藤さんと斑鳩さんのコロポックル学を聞いて、友咲が1番しっくりと感じる一言を漏らした。


(部族か、なるほど…)


素直に納得してしまった私の顔を見て、佐藤さんと斑鳩さんが「当たらずとも遠からず」と声を重ねた。

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