コロポックルとは。

第4話 そして誤解は解けなかった…

ショッキング過ぎる朝を過ぎ、私と友咲はざわつく教室の中にいた。断固として拒絶したかった再会をしてしまった朝、私は眠気より疲れを感じていた。このままでは、とてもじゃないが授業なんて受けられない。


「一花ちゃん、佐藤さんと仲良しなんだね~」

そんな満身創痍な私に容赦のない、微塵も悪気のない笑顔を向ける友咲。どこをどうしたらそんな受け取り方が出来るのか、一度でいいから友咲の頭の中を覗いてみたい。

友咲の言葉に身体中の全ての力が抜けていくのが分かる。疲れている所に友咲のこの天然発言は、私の#HP__ヒットポイント__#を抉り取った。ガクンと机に突っ伏した私に不思議そうな友咲。


「どの辺が仲良し?」

机に突っ伏したまま、試しに聞いてみる。

あのおじさん曰く、私は空腹のおじさんにご飯が貰えそうな場所を教えた親切なお嬢さんらしいが、そんな会話をした覚えは全くない。

おじさんがあまりに非現実的な発言を繰り返すものだから、思考が全てを拒否してフリーズしていたようだ。


(気付いたら家に帰ってたしなぁ…)


「優しいね、一花ちゃん」

ニコニコしながら私の顔を覗き込む友咲。「そう言えば、幼稚園の入園式の時も…」なんて、私たちの出会いの思い出話を始める友咲は「懐かしいなぁ」なんて目を細めるふんわり笑う。周囲のクラスメイトも巻き込んで、辺りがホンワカ空気に変わっていく。

でも私に聞こえてきたのは、最後の「優しいよね、一花ちゃん」のみ。


「え、あー、、困ってたから」

口をついて出てくる言葉に感情が乗らないのは、疲れたからとかそんな理由だけじゃないように思う。


「今日は、一緒に蓮の葉がある所、探してあげようね!」

酷く疲弊していた私は、思考を遠くに飛ばそうとして友咲の言葉で見事にそれに失敗した。

私には全く理解不能なヤル気満々の表情で友咲は私を見つめる。


(この子は、一体何を言ってくれちゃってるのかしら…?蓮の葉がある場所を探す?今日?学校終わってから??)


「…ん?え?…何で?」

自然に…自分でも驚くほど自然に言葉が落ちた。言葉が物体として存在していたら、確実に机の上にポトッと落ちる様を見られたと思う。

それくらい自然に言葉が口から溢れていた。

「だって、食べ物無くて困ってた佐藤さんに、パン屋さん教えてあげたんでしょ?次は、探してる蓮の葉だよ!!」


意気込む理由が全然見えてこないけど、友咲は自分の拳を振り上げて、これ以上ない程にヤル気を見せている。


私はすぐ目の前にいる友咲が、時々手の届かないほど遠い存在に感じる事がある。…いろんな意味で。

友咲が天然だと気付いたのは、幼稚園の入園式当日教室からトイレまでという、絶対に迷いそうにない距離で迷子になっていた友咲とほんの少し会話を交わしただけで分かった。私の性格上、友咲のような子を突き放すことなんて出来ない。


「その蓮の葉探しは、私らがやらないとダメなやつ?」

一応、確認ね、確認。


「だって、佐藤さん困ってたもの!」

ダンッ!と大きな音を立てて、友咲が私の机を両手で叩いた。その音に周囲のクラスメイトの視線が一気に集まる。

慌てて「何でも無いよ~」と作り笑いで誤魔化す私を他所に、友咲は頬を膨らませご立腹である。いや、ご立腹したいのはどちらかというと私の方である。そんな私を1人置き去りにして、友咲は携帯のマップを眺めながら、ブツブツと蓮の葉がありそうな場所を検索していた。


どう見ても怪しかった相手をちゃっかり名前で呼んじゃってる辺り、時々何かの事件に巻き込まれないか、友咲の事が本気で心配になる。

あの短時間で普通はそんなに仲良くなれない。友咲に普通の#普通__・__#というベクトルが当て嵌まるかどうかは別にして。


友咲は普通から逸脱してる所あるからなぁ…と、必死に蓮のありそうな場所を検索している友咲を私は半ば遠い目になりながら見守る。

友咲の思考回路と行動パターンを読めないほど、私たちの付き合いは短くない。なんと言っても、4歳から今日まで親友としてやってきたのだ。

私は乾いた笑いを浮かべながら、放課後は蓮の葉探しから逃げられないと悟った。


ざわついていた教室に担任が入って来て、#生徒__クラスメイト__#たちが一斉に各々の席に戻っていく。友咲も「また後でね!」と軽く手を振りながら、小走りに自分の席へと戻って行った。

席に戻って行く友咲を視線で追いかけると、私の視線に気付いた友咲が「頑張ろうね!」とガッツポーズをして見せた。

頑張るのは良いけど、私を巻き込まないで貰いたい…と切実に思う。


現実離れした…というか、酷暑で頭やられちゃってる系のおじさんと昨日運悪く出会ってしまってから、良からぬものでも背負ってるのかと思うくらい、私にとって不運とも言える出来事が次々起こる。幼なじみの大暴走という疲労感のオマケ付きで。


休み時間になる度に「佐藤さんとは仲良しではない」と説明するも、私の誤解を解きたい気持ちは虚しく、友咲の誤解を解くことは遂に叶わなかった。そして、その日6時限全ての授業が私の頭に入ってこなかったのは…言うまでもない。

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