第22話 現実
フラマン王国最後の宰相になったウォルフ・ハインリッヒは当時48歳だった。元々は平民出身であったが学問優秀だとして早くから登用され帝国に留学するなど期待されていた。しかし、貴族出身でないため能力がありながら出世できず、ここ数年はキャサリンのお妃教育の責任者として講師の管理などをしていた。
そんな彼が宰相になれたのは、フラマン王国の時代遅れになった政治体制の改革を担うためであった。具体的には周辺諸国で採用されている議会の設置や有力貴族による事実上の分割統治の解消などだった。しかし、それも国王の信任があればこそであった。そのため、国王が崩御しヴィルヘルムが即位すれば改革の芽はなくなるはずだった。
「宰相閣下、ヴァイス伯の軍勢ですが王都近くへ進軍しつつあります。サラヴィー渓谷で大規模な戦闘が起きる可能性があります」
どうやらヴァイス伯の私軍は政権側を過小評価しているようだった。しかもサラヴィー渓谷近くまで帝国軍が侵攻しているを気付いていないようであった。
「愚かな! ヴァイス伯は・・・もう死んでいるのに!」
ハインリッヒは無益な戦いが始まろうとしている事に愕然としていた・・・
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ヴィルヘルムは体温を感じていた。気持ちを高揚するお香がたかれ淫靡な気持ちになり、長い栗色の髪の毛を撫でていた。海のように押しては引いていく波のように吐息を奏で、切ない声をあげていた。互いの心の汗が二人の心と身体を交じり合わせる役割をした。
「ねえ、ヴィルヘルム様。もっと・・・強く!」
目の前の彼女は強く誘ってきた。真実の愛を確かめ合う最も確かな方法、それは身も心も解け合うように二人とも解け合う気持ちになることだ。
「わかっている、いってもいい?」
「はやく!」
ジェーンの誘いにヴィルヘルムは応じるしか選択肢はなかった。それは貴賤関係なく全ての男女が行う崇高な儀式だ。二人の影は交わった! それはまさに・・・そのとき、ヴィルヘルムは引きもどされた! 現実に!
「おい、起きろ! 飯もってきたぞ!」
看守にヴィルヘルムは頭を棒でつつかれて起きた。
「なにしやがる! 人が折角良い夢を見ていたのに!」
「夢か? どうせ彼女とよろしくやっている夢だろ」
看守はそういってヴィルヘルムの前に食器を差し出した。そこには具など殆ど入っていないスープと硬くて黒い小さなパンが載っていた。
「なんだ、これ!」
「決まっているだろ、お前の朝食だろ! さあ、喰え! 俺は忙しいんだ。なにせ貴族どもを大勢拘束しているからな」
「なんだって?」
思慮浅いヴィルヘルムでも地下牢の外で大変な事が起きているのがわかった。
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