第21話 不満
ハインリッヒもオットーも真実の愛だといって全てをぶち壊した若い二人の事など後回ししてもいい事であった。ヴァイス家やフォレスタル家の処断も必要であるし、キャサリンの事もしかりだ。
「ヴァイス家ですが当主奪還を目指し武装蜂起しています。近衛部隊だけでは対処しきれません」
近衛部隊師団長のハーンはそう報告した。ヴァイス家はフラマン王国では王家の次に勢力がある貴族であった。当主のホルストが油断して宰相執務室で酔って仮眠をしていなければ相当厄介だった。
「それであるが、南部国境を越え帝国第三師団が進撃していると通達が来ている。ヴァイス領の主席執行官に理性が備わっているなら無益な戦闘はしないだろう」
ハインリッヒは苦悩の表情をしていた。一見するとハインリッヒを助けている様であるが、実際はフラマン王国解体の準備でしかなかった。まだ正式な分割案は決められていないが、王国南部は帝国領と接した大穀倉地帯だ。まっさきに帝国が欲する領土だった。
「宰相閣下、フォレスタル公爵ですが当主の夫婦そろって自害されたそうです、子息のリヒャルトは公爵位と領地の返上を申し出ております」
オットーの報告に一同唖然としていた。娘がしでかした事態に絶望したようだ、キャサリンの処刑を強く主張したことは広がっていた「事実」であった。婚約者を追い落とし自らその地位を獲得しようとした行いは批判されて当然であった。叔父に唆されたとしても。黙祷をした一同は沈痛な面持ちであった。
「フォレスタル公爵領に執行官を派遣せよ。あの地に暴動が起きぬように。それと早く各貴族家の動向を把握するように」
ハインリッヒは瓦解し始めた王国に秩序を回復させようとしていた。それは滅亡の瞬間まで生かすためであった。三か国に分割されるまでも束の間の時間であった。
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ヴィルヘルムは不満だった。最初は王城の貴族用の監獄だったのに今は地下牢にぶち込まれたことに。最初の監獄は窓が天井近くにあるが、そこそこ広く簡単な寝具なども家具も置かれいたが、不満はあったものの人間らしい扱いだった、
しかし、この地下牢は遥か遠いところから光が届くので昼でも薄暗く、身体を横にするのも窮屈な広さしかなかった。そこは死刑囚が収容されるところだった。ここにぶち込まれたら国王の恩赦でもなければ次に出るのは死ぬときという曰くがあった。
「おい! 看守! どうなっているのか教えろ! コラッ!」
ヴィルヘルムの問いかけに応じる者は誰もいなかった。
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