第20話 条約

 ヴィルヘルムは忸怩たる想いであった。ホルストが姪のジェーンを使いヴィルヘルムを引きずり込んで国政を我が物にしようとしているのを宰相に就任した三か月前に把握していた。しかし、帝国からのキャサリンの処遇に関する要求に対応するのが忙しく十分に対処できなかった。今にして思えば帝国の陰謀もあったかもしれない。このフラマン王国を潰すために。


 そんなときキャサリンの救出が報告されたが、その内容に愕然としていた。キャサリンの貞操が奪われそうになり負傷していると。それは帝国と他二か国と締結した条約によりフラマン王国の滅亡を意味していた。


 その条約ではキャサリンのトリニティ王国女王への就任と、帝国政府から婚約解消に伴う補償支払いが決められていたが、裏条項に罠があった。キャサリンが女王就任までに亡くなったりした場合のものだ。


 キャサリンが病死した場合は一切の補償は支払う事はないということもあるが、重要なのは殺害もしくは負傷したりなどの危害が加えられた場合、懲罰としてフラマン王国の領土を三分割するというものだ。また殺害された場合は王家は断絶、危害を加えた場合は帝国内で侯爵家に格下げするものだ。


 本当ならヴィルヘルムが婚約破棄しなくてもキャサリンは婚約者でなくなるのは時間の問題だったわけだ。しかも早く実行するために殺そうとしただなんて・・・会議で問題になったのは空席となるヴィルヘルムの婚約者にサンヴェルガ王国の現国王の姪に変更する案に対してだった。真実の愛なんてものを探しているヴィルヘルムがそんなことを認めるはずもないので、ハインリッヒは抵抗したのだが、全ては無駄になった。


 「こんな条件だったなんて・・・こんな条約破棄できないですか?」


 オットーは言ったが出来ないのは分かっていた。条約を破棄したところで結果は同じだと。地図からフラマン王国が消されることに変わりないと。


 「できないさ! あのバカ息子! やつのせいで終わりだ! とりあえず王太子には陛下の弟君の令息に就任してもらうように打診してくれ。彼には実際は帝国侯爵になると伝えること。そして、あのバカ息子とバカ令嬢だが・・・ぶん殴りたくなるので、暇になるまで地下牢に入れておけ! 最低限の飯は食わして死なない程度にな! それと誰にも状況の説明をするのを禁ずる! 以上!」


 そのとき、ヴィルヘルムとジェーンはしばらく放置されすこととなった。


 

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