第12話 G級ダンジョン散歩 BF2 初討伐

 休憩を挟まずにダンジョンの階段を降り、第二層へ足を踏み入れる。

 ダンジョンは基本的に地上ではなく地下へと続いていて、壁や床はダンジョンが発生した土地とは無関係に土壁だったり石壁だったりといい加減に変化する。


 そして、全てのダンジョンに共通することは細かな木の根っこのようなもの――というか実際根っこだが――があちらこちらに張り巡らされているというところだ。

 その木の根が僅かに光を発しているので薄暗いが視界は一応ある。

 難関ダンジョンになると完全に光のない暗闇だったり、マグマが噴き出していたりするので光源の用意や耐火装備もしくは耐火付与の支援魔術の準備が必要になる。


 ここはG級なので駆け出しの初心者はランタンでも腰に提げておけば少し楽なんじゃない? 程度だ。

 ちなみに俺は今回ランタンは出していない。

 ヨルハの修行にならないからだ。


「ヨルハ、二層に入った訳だが、何か思うところはあるか?」


「6メテル(※メートル)先の天井に魔物の気配を感じます。恐らく一層で見たコウモリ型のモンスターかと」


 薄暗いダンジョンの天井をじっと見つめるヨルハの視線の先には確かにドレインバットという魔物が翼で体を包み天井に張り付くようにしてぶら下がっている。

 薄暗いダンジョンの闇に紛れる黒い体は視認し難く、新人冒険者は上からの奇襲を受けて噛まれてしまうことが多い。


「浮かれずにしっかり周囲を見れているな。素晴らしいぞ。ドレインバットは血を好む。主な攻撃方法は、自由に飛べることを活かした動き回りながらの噛み付きとすれ違いざまにかぎ爪でひっかいてくる。爪での攻撃は威嚇程度だが、恐ろしいのは噛み付きの方だ。あいつらの牙には病を引き起こす毒性がある。即効性はないが、放っておけば長い時間をかけて衰弱して死ぬぞ」


「……さっそく毒性のある魔物ですか。わたしは攻撃魔術が使えないので飛び回られると武器がないとどうにもできそうにありません」


 一層では俺が近接武器でコウモリを薙ぎ払っていたのをヨルハは後方から見学していた。

 その最中にも、きちんと自分が戦闘する状況を考えていたのだろう。

 こうしてヨルハの言葉を聞く度に、ヨルハの語った夢が嘘偽りではないのだと実感する。


「ヨルハは昨日ゴブリンと殴り合いをするまで自分が魔物を相手にしたことはなかったんだろ?」


「はい。後方に待機して回復魔術の準備をしていました」


 つまり武器を持って戦闘をしたことがないということだ。


「いきなり武器を持った戦闘の相手が飛行種じゃ分が悪い。弓を貸すからここから狙って見ろ」


「わたしが戦ってもいいのですか?」


 緊張でもしているのか、心無しか耳と尻尾の毛先がツンツンしている。


「外してこちらに襲い掛かってきても俺が対応するから気楽にやってみな」


「はい!」


 緊張を解いてやり、マジックルームから適当な弓を取り出す。

 レリック級のものだとは思うが、まあ多分ヨルハの矢が当たることはないだろうから関係ないだろうと思いそのまま手渡す。


「……」


 天井にぶら下がり闇に同化しているドレインバットを注視し、静かに呼吸を整えていくヨルハ。

 呼吸が、脈動が射線をブレさせないように一点に集中し照準を合わせている。


 弦を引いたまま狙いが定まるまで姿勢を維持するのはなかなかに疲労するものだが、ヨルハはそれでもしっかりと目標を見据えたまま足の位置や肘の角度を試行錯誤しながら狙いすましているのだろう。


 ――シュッ!


 そして遂に放たれた矢は張り詰めた空気を切り裂く音を残し、遥か彼方へ飛んでいく。


「はずして、しまいました……」


 がっくりと項垂れるヨルハ。

 耳も尻尾もしゅんと垂れて落ち込んでいる。


「まあ、幸い相手も気づいてないしもう一度チャレンジすればいいさ。教わってもいないのに自分でそれらしい型を探していたのはよかった。初めてにしては綺麗な姿勢だったぞ。まあ、逆に言えばダンジョンでゆっくり構えていたら危険とも言えるんだけどな。素質はあるからすぐに慣れるさ」


 弓を遠方から一方的に放つなんて狩人や、勝勢の弓兵くらいのものだ。

 接近戦や乱戦が基本になるダンジョンじゃそうそうそんなケースはない。

 まあ、冒険者としてパーティやレイドを組む場合には有用なので一応試しているだけだ。


 ヨルハにはちゃんと近接戦闘向けの武器を考えている。


「今日はただの散歩だから、気楽にやろうぜ」


「はい!」


 それからしばらく、俺はヨルハに弓を供給する係兼、護衛としてドレインバットと戦闘を繰り返した。

 ヨルハが矢を当てられたのは合計二匹だけだったが、自分の力で魔物を討伐したことを嬉しそうに尻尾を振っていたのでなんだか俺も幸せな気分になる。


 ヨルハが疲れすぎないようにある程度のところで俺が前衛に戻り、ダンジョンを再び先導して二層を抜ける。


 三層にはゴブリンやドレインバットに加えてスケルトンが出現する。

 ヨルハにはそこでまた少し戦闘を試して貰うとしよう。

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