第13話 G級ダンジョン散歩 BF3 (前) 白亜の短杖
G級ダンジョン三層。
この等級のダンジョンはだいたい五層が最下層のことが多いので、中層とも呼べる。
宝箱なんかが出現する可能性も出てくるが、中身は低級の薬草類とかコモン級の遺物だ。
遺物というのは珍しい食器や便利な道具だったりするが今回は探索が目的ではないので割愛しよう。
ちなみに同様の理由から今回は倒した魔物の素材も回収はしていない。
なんてことをヨルハを階段に座らせて休憩を取らせながら軽く話してやる。
「それじゃあ今回は宝箱を見つけても無視しますか?」
階段に腰掛けたヨルハが上目遣いで問いかける。
顔はいつも通りだが耳がしゅんとしているので宝箱に興味があるのが丸わかりだ。
「見学ツアーだからな、わざわざ探しはしないが見つけたら開けていいぞ」
「……! やった! ありがとうございますっ!」
うれしそうに狐耳がぴくぴくしてる。
もふもふしたい。
じゃなかった。
「ある程度の等級のダンジョンには、宝箱に擬態した魔物も出現する。G級で出くわすことはほぼないがゼロじゃあない。そこだけは気を付けろよ」
「わかりました師匠っ!」
ぴしっ! と敬礼してみせるヨルハ。
まだ短い付き合いだが、出会ったばかりの頃に泣き顔を見ていたせいかこんな小さな呑気さが嬉しく思う。
「良し! じゃあ気合いも入ったところでそろそろ先に進むとするか!」
「了解です!」
三層目もこれまでの階層と変わらず、小部屋と小部屋を繋ぐように薄暗い洞窟が続くような構造だ。
出てくる魔物も想定通りにゴブリンやドレインバットだ。スケルトンの気配も魔力探知にかかっているがもう少し先だ。
木の棍棒を振り回すだけの低級ゴブリンと違い、スケルトンはボロボロだが鉄の剣を持っていることが多く、珍しい個体はクロスボウを持っている。
ヨルハには剣持ちの平凡な個体と戦わせたいので、ちょうどいい獲物を探しながら進んでいく。
「アルメスさんは地図もないのに進む方向に迷うことがないんですね」
ふと、後ろをついてきているヨルハに尋ねられる。
理由はいくつかある。
俺が使用している探知の魔術は魔力の気配を鋭敏に感じ分けることができるので、ダンジョンの発する魔力の強いところ——つまり下層——の方向がわかること。
同様の理由から、魔物の潜在魔力を確認して不必要な戦闘を避けたルートを選べること。
最後に、ダンジョンが俺の侵入を嫌がること、だ。
これは言っても理解され難いことは明白なので簡単に説明する。
「ヨルハは聴覚や嗅覚に優れているから敵の気配を察知し易いだろ? 俺はそれを魔術で代替しているんだ。自分の魔力を細く薄く蜘蛛の巣のように広げて周囲の魔力を探知して道を決めてるんだよ」
「それでは、探索中ずっと魔術を使用しているんですか……!?」
「ん? まあ、そうだな」
「い、いったいどれだけ膨大な魔力を持っているんですか……これがS級……」
目を見開いて驚いているヨルハ。
「ヨルハもS級を目指すんだから俺を超えるくらい魔力量を伸ばしてもらわないと困るぞ。どんどん特訓していくからな」
「うっ……が、がんばります……」
魔力量を伸ばすには何度も魔術を行使して魔力切れでぶっ倒れて回復してまたぶっ倒れて回復してを繰り返すしかない。
中途半端に魔力を残しても底は変わらないので毎回完全に使い切る必要かがある。
そしてヨルハは回復魔術しか使えないので、どんどん戦闘をして怪我をして回復して気絶を繰り返す地獄の猛特訓をするしかない。
ただの回復術師ではなく、どんな壁にも立ち向かえる強い回復術師になるには仕方がないのだ。
「だからヨルハにはこの武器を渡しておく」
俺がマジックルームから取り出したのは白亜の短杖という武器だ。
「これは、仕込み杖ですか?」
そう、この短杖は魔術の行使を支援するエンチャントも付与されているが、短杖自体も龍骨という素材で作られた丈夫な打撃武器であり、更には仕掛けを外すと杖の上部が抜けてナイフへと変わる。
もちろん、鞘にあたる杖も丈夫なので片方はナイフ、片方は鈍器という使い方も可能だ。
「今のヨルハの体力や力を考えると剣や斧を振り回すのは難しいだろう。それに折角の俊敏性を損なってしまう。だから最初はそれをお勧めする。勿論、気に入らなければ言ってくれれば剣でも槍でも貸してやるから安心しな」
ヨルハは俺が渡した白亜の短杖をじっと見つめた後、薄暗いダンジョンの先を見据えて身構える。
周囲には敵はいない。
ヨルハもそれは理解しているだろう。
少し間を開いて、ヨルハが短杖を棍棒のように振りかぶり、幾度か素振りをする。
短杖自体は長さが90セテル(※センチメートル)程度だが、剣のように金属製でもなければ幅広でもないので軽く振っても、その振りはかなりの速さだ。
素材自体も軽量で頑強。
重さは無いが速度を乗せてあれで殴打されれば、この前のゴブリンなどは一撃で死ぬだろう。
その分、軽いので守勢に回ったときには重い攻撃には耐えられないし、受け流すには技術と判断力が必要だ。
それはきっと、何度も構え直しては素振りをしているヨルハも感じていることだろう。
「……ふぅ。剣よりもこんなに細いのに振り回すのはとても体力を消耗しますね」
素振りを終えたヨルハが胸を上下させ息をつく。
「それなら一応、短めの短剣もあるぞ」
マジックルームから刃渡りが40セテル程の短剣――ダガーナイフ——を差し出すが、ヨルハは首を横に振って応えた。
「わたしは、この白亜の短杖が良いです。なんとなく、馴染む感じがするし……それに、あ、アルメスさんが選んだくれたものなので……」
段々と萎むように小さな声になっていき顔を真っ赤にして頭からヨルハ。
尻尾はぶんぶんと大きく横に揺れている。
それはいったいどういう感情なんだろうか。
それはさておき、正直間合いの狭い短剣は初心者にはカウンターを受けるリスクが高いので心配していたので、ヨルハの決断に俺はほっと胸を撫で下ろした。
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