第11話 G級ダンジョン散歩 BF1 アルメス無双
ヨルハがホテルの広さに驚いたり、勝手にお湯が出るシャワーや浴槽に感動したり(感想を聞いただけで覗いてはいない)急にお金のことを心配しだしてきたのではした金だと笑い飛ばしてやってまた驚かせたり、頼んでいたルームサービスの豪勢な食事に「おいしいおいしい」と一生懸命頬を膨らませたりと賑やかな夜を過ごした翌日。
「今日はG級ダンジョンを散歩しようと思う」
「散歩ですか?」
リビングスペースで朝食と紅茶を楽しみながら今日の予定を説明する。
「基本的には戦闘は俺が担当して、ダンジョンを踏破する。ヨルハはまだダンジョンについてあまり詳しくないだろう? だから見学ツアーだよ」
「それじゃあわたしは戦闘はしないのですか……?」
ヨルハが俯いたのは多分、俺があげた装備の出番がないのではないかとがっかりしているんじゃないかと思う。
何故かと言えば、獣耳がしょんぼりしているから。
「基本的にって言ったろ。丁度良さそうな状況があればヨルハにも戦って貰うさ。武器の適正も見ていきたいしね」
「武器ですか? 杖で戦うのでしょうか」
「そうだね。杖でもいいし、剣でも斧でも槍でも弓でもいいよ。全部試してみよう。それでとりあえず一番使い易そうなものをベースに鍛えていこう」
「気のせいでしょうか、ベースにって聞こえたんですけど……練習自体は全部やるんですか?」
なかなか察しがいいな。
昨日の特訓で俺の思考を少し読めるようになったのだろうか。
「まず、ヨルハは回復術師なので普通なら後方から支援魔法を使用したり、怪我人が出たら治療をするのが一般的な役割だ」
「バルドたちのパーティでもそうしていました」
「だが、それには問題があったろ? 前衛二人のパーティに後衛が回復術師のヨルハ一人。回復魔術が必要になるときは前衛の誰か、もしくはヨルハが欠けてしまうということだ。それはもうパーティの壊滅と言ってもいい。ダンジョンアタックを即刻中止して帰還するべき状況だ」
「あれ……? でも、わたしたちなんとか生きてこられましたよ」
「それはポーションの準備があったことと、G級の上層だったからだろう。バルドとマールは冒険者としてはまだまだヒヨっこだが体は出来ていた。それなりに鍛えてはいたんだろう。ゴブリン程度に簡単に殺されない程度にはな。けど、ダンジョンには神経毒や致死性の高い毒を使ってくる魔物、斬られても死なないアンデッドだっているんだ。G級なら下層のスライム系やスケルトン系のモンスターだな」
「G級でも死ぬような毒を使う魔物がいるんですね」
狐耳が項垂れる。
「そりゃあダンジョンの目的は人間の排除だからな。必死に殺しに来るぞあいつらは」
「ダンジョンの目的……」
そう呟いてから、ヨルハは逡巡するように目を泳がせる。
先ほどからたくさん質問をしてきているので遠慮しているのだろうか。
まだ何もかも遠慮なしとはいかないってとこかな。
「まあ、その辺りはヨルハが上を目指すならいずれわかることだよ。今回はとりあえず、ダンジョンがどういう物かしっかり観察するのが第一目的、次に武器の試用だ。それだけ頭にしっかり入れておけば今回は俺が最奥まで連れていってやる」
「……わかりました。強くなって、アルメスさんと同じものが見れる場所まで、必ず辿り着きます」
「その意気だ。それじゃあ今日の目的をちゃんと達成して帰ってきたらご褒美をあげるから頑張るんだぞ」
「そんな、さすがにこれ以上なにか頂いてもお返しできるものが……あ……」
いや、その変な間はやめてくれよ。
顔を赤くしないでくれ。
こんな小さい子にドキっとしてしまう気持ち悪いおじさんと思われたくないんだよ。
俺はただヨルハの成長を後方腕組み師匠面で眺めて居られればいいだけなんだから。
ということで王都を出て、昨日行ったのとは別のダンジョンへ向かう。
別のダンジョンにしたのはなんとなく、またあのゴブリンに出会ってしまう気がしたからだ。
考え過ぎだろうけど、なんかあいつを殺すのは気が乗らない。
「じゃあさっき言った通りに俺が先導する。俺が指示するまでは周囲の警戒とダンジョンの構造をよく見て危険そうなところに注意を払っておくこと」
「はいっ!」
元気な返事に狐耳がぴこんと立ち上がる。
最初は引っ込み思案な子だと思ったけど、物事をあまり知らないだけで感情自体は豊な娘なのだろうな、と考えごとをしつつダンジョンをサクサク進む。
歩くペースはぎりぎりヨルハがついてこられる程度の速度。
周囲に目には映らないような薄い魔力の糸を蜘蛛の巣上に張り巡らせて魔物を探知。
見つけた魔物が遠方に居ればマジックルームから弓を取り出し一矢。
曲がり角の先に潜んでいるゴブリン三体の群れに対して今度は両手に手斧を持ち替えて一足に駆け寄り二匹の首を撥ね飛ばし、最後の一匹には片方の手斧を薙いだ勢いに載せ投擲して脳天をかち割る。
その後も片手剣、大剣、槍と持ち替え、ゴブリンやコウモリ型の飛行する魔物を次々と撃退しつつダンジョンを駆け抜ける。
探知、即、滅、だ。
そうこうしている間にダンジョンの二層に続く階段を発見。
ヨルハに疲れがないか確認する。
「わたしは走っていただけなのでまだ大丈夫ですが……アルメスさんは先ほどからすごい速度で駆け回って大きな武器を振り回したりしていますが平気なんですか?」
「何も問題ないよ。ヨルハの目で追える速度しか出してないし、たいして力も入れていないからね」
むしろ俺は、昨日のヨルハの戦闘の様子を見て、自衛……ではなく、攻撃的な回復術師の可能性を見出していたので敢えて、ヨルハの挙動に近い動きを模倣したうえで様々な武器を使って見せている。後々の実践で参考にさせるためだ。
「それじゃあ休憩が必要ないなら二層へ行ってみるか」
「はい! わたしもいつでも戦う準備は出来ています!」
元気に頷くヨルハに気分も良くなる。
これならば俺が極秘に計画しているヨルハのヒーラー型戦士育成計画は順調に進みそうだ。
ヨルハに気づかれないようにニマリとご機嫌に口角を吊り上げ、俺は二層への階段を降る。
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