第10話 それぞれのパーティ ※別視点
※ラッシュ視点(C級ダンジョンアタック帰還頃)
「納得がいかねぇ! どうして俺たちがランク昇格できねえんだよ! C級討伐だぞ! しかもでかい個体のデモンスパイダーだってのによ!」
ラッシュはクランハウスの自室で荒れていた。
本来であれば、クランの上役たちに押し付けられた教育係のアルメスを報酬の配分もなしに追い出すことに成功し、ラッシュとパーティメンバーのフレイとランは意気揚々とクランハウスに凱旋し、今回の探索の結果を持ってギルドでのランク昇格試験を受けることができるはずだったのだ。
そんな期待に胸を高鳴らせ凱旋したというのに、アルメスが脱退したと告げた途端に手続きをする事務員たちがざわめき出したのだ。
やれ、団長不在でアルメスを追放だなんてどうかしている。
早く頭を下げて脱退を取り下げて貰って来いなどと。
「ふざけんじゃねえ! あんな何にもしないで後ろでニヤニヤしてるだけの野郎になんで俺が頭を下げなきゃならねーんだよ! 頭を下げるってんなら普通アルメスの野郎じゃねえのかよっ!」
興奮したラッシュは乱暴に腕を振り回し、自室の机の上に並べられていた食材やカップを吹き飛ばしてしまう。
拳にじわりと残る些細な痛みが、アルメスのせいで己を苛ませているのだと思えば、より鬱陶しく感じて苛立ちが募るばかりだ。
「しかしなんだってどいつもこいつもアルメスの肩を持つんだ。ずっとパーティを引っ張ってきたのはこの俺だぞ! C級のモンスターだってあいつ抜きで、俺と仲間三人だけで討伐したんだ。その実績があんなやつの為に無駄になってたまるかよ!」
ラッシュは今回のダンジョンアタックにはBランク昇格が掛かっていると随分前から訓練を重ね、アルメスが居なくとも問題なくダンジョンを攻略できるように情報も資材も集めて備えてきたのだ。
いつまでもガキみてえにお守りなんて付けられなくてもやっていけるんだとベテランたちに認められるための、一流の冒険者になるための夢の大切な一歩だった。
「アルメェェェスゥ……」
強く歯を噛みしめたラッシュの犬歯が牙を剥く。
爪が手のひらの皮を突き破りそうな程に拳を握りしめる。
呪詛のようにアルメスの名を口にするラッシュの怒りはやがて静かに心の内に染みわたる。
――彼は知らない。【黎明の剣】に於いてアルメスが新人の教育係を任されていたという表面上のことしか知らないのだ。アルメスの願いも、クランの上役たちの期待も、ラッシュにはただうまく伝わっていなかっただけなのだから。
他愛も無い微かなすれ違いが産み出した消せぬ炎が燃え盛るその時まで。
◆
※バルド視点(治療院入院中)
「おい、マール」
「なんだい?」
「なんだ、もうちゃんと喋れるようになったのか。俺はまだ顎が痛えよ」
「本当にそれだよ。俺もすごく痛いよ」
バルドとマールはアルメスに殴り飛ばされたあと、ふらつく足どりで街を歩き、なんとか見つけた適当な治療院に入ることが出来た。
治療費は想像以上で、これまでのダンジョンアタックで稼いだお金の全てを使ってしまい、それでも足りないため、残りの治療費は借金ということになるらしい。
しかも返済誓約書にに魔力署名を取られたため、逃亡すれば犯罪者としてお尋ね者になってしまう。
「畜生っ! 俺の顔に傷を付けやがったあのおっさん絶対に許せねえ」
「本当にそれだよ! あの時のバルドの顔ったらまるで芋みたいにぼこぼこだったもんね」
「マールッ! てめえぶっ飛ばすぞ!!」
「あんたたち煩いんだよ! 静かにおし!!」
マールにからかわれて逆上して大声を出してしまい、治療院のみすぼらしいババアに怒鳴られて大人しくベッドに横になる。
みじめだ。
俺は北部の男だ。
豪雪にも負けず強く逞しく厳しく鍛えられた肉体。
故郷に帰れば若い女はどいつもこいつも俺に色目を使ってくる整った顔立ち。
それと比べて俺たちを背後から不意打ちで殴り飛ばした卑怯者のヨルベア人らしき金髪金眼の優男――アルメス――アルモア北部の男は決してヨルベア人には負けてはいけない。
それは北部の男ならば誰しもが魂に刻んでいる掟である。
「マール。怪我が治ったらダンジョンに行くぞ。さっさと借金を返してあの男からヨルハを奪い返すぞ」
「ええ~本当にそれやるの? 俺別にヨルベア人とかどうでもいいよ」
「てめえッ! それでも北部の男かッ!」
「うっるさいって言ってんのがわかんないのかいこのガキども! さっさと寝ないなら無理矢理薬で眠らせてやろうか!」
再び大声を出してしまい、治療院のババアに脅されて渋々ベッドに寝転がる。
次は不意打ちなんて卑怯な真似はさせない。
俺はまだ駆け出しで冒険者ランクこそG級だが、北部の戦士だ。
戦士は誇りとてめえの女は絶対に捨てやしない。
「必ず、復讐してやるぞヨルベア人」
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