第8話 え!?

先週、大和が帰る前に毎週土曜日に治療をするという約束をしてしまった。そして今日がその日だったりする。先週、めちゃくちゃ抱きしめられた上にキスまでされたらこっちも落ち着いていられない。だけど鉱石病は治さないといけない。悶々としながらベッドの上でゴロゴロしていたら玄関からチャイムの音が聞こえた。あんな事をした相手とは言えど好きな人だから軽い足取りで出迎えに行く。


「大和! 」


「お〜珍しく元気だな笑」


「だって大和と会えるの嬉しいんだもん」


「お前可愛いな 前より素直になってるし」


「そりゃ付き合ってるんだしいいでしょ? 」


思っていた事をそのまま口にすると大和が手で顔を覆ってしまった。体調でも悪くなったのかと思って顔を覗き込もうとしたが見えない。ただ1つ分かったのは耳まで真っ赤になっていた事だ。


「大和顔真っ赤だけど体調悪い?大丈夫? 」


「大丈夫だけど大丈夫じゃない」


「え? どっちなの? 」


「体調は大丈夫だけど理性がヤバい」


理性がヤバいと言われてどうすればいいんだろうか。とりあえずこれ以上何かをしたら僕が危ない状況になるのだけは分かる。


「えっと... 先に部屋戻ってた方が良い? 」


「あ〜... うん。そうしてくれると助かる 」


結局どうすればいいのかは分からなかったが部屋に戻るのは正解だったらしい。部屋に戻った所で特にすることも無い。とりあえず動画でも見ようと思ってスマホを手に取ろうとしたら机の上のある物が目に入った。熱出したりして唇が乾燥した時に使っている薬用リップとパッケージが似ていて間違えて買った色つきリップだ。間違いに気付いたのはパッケージから出してリップ自体の色を見てからだったから返品出来ないし、ゴミ箱に捨てようにも気付かれたら面倒だからそのまま放置していた。使い道なんてないと思っていたけどもしかしたら今が使う時ではないだろうか。

薄いピンク色のリップを塗って内カメラで確認してみる。少しだけ血色が良く見えて程よい艶もある。大和と会う時位は塗ってもいいかもしれない。そう思って外カメラに設定を戻して後ろを向いたら既に大和が部屋に入って来て胡座をかいている。元々そういう奴だという事ぐらいは勿論知っている。大和の横に向かい合うようにして僕も座る。


「ごめん 待たせたな。ん?唇綺麗だな。なんか塗った? 」


「間違えて買っちゃった色つきリップ。たまにはいいでしょ? 」


「確かに良いな。興奮する 」


「えっ 今なんて...」


「冗談だよ笑 いつもに増して可愛いけど」


「そもそも僕って可愛くはないと思うけど」


「俺からしたら可愛いの。服捲っていい? 」


「急に!? じゃあお願い 」


そう言い終わるのが早いか否か服を捲り始めた。大和の手が肌を掠める。それだけで妙に意識してドキドキしてしまう。お腹の辺にある鉱石を1つ取るとこの前同様手の平の中で転がしたり光に透かしたりしている。捲られたままの服を直し疑問を投げかけてみる。


「この前もそうやってたけどなんで? 」


「綺麗だからに決まってんだろ 」


そう言って鉱石を噛み砕き始めた。その顔に思わず見とれてしまった。日焼けをしている上に整った顔をしている。普通にモテそうなのに僕と付き合ってていいんだろうかと不安になってくるぐらいにはかっこいい。しかもやや伏し目がちなせいか色っぽく見える。


「怜。こっちおいで 」


はっと我に返ると大和が手を広げて構えている。その優しい声に従って大和に近寄ると優しく抱きしめられた。

そのまま数分経ったが、離してくれるような気配がない。しかも途中から頭も撫でられている。大和の匂いと体温だけでもかなり落ち着くのにそこまでされたら安心しきってしまう。そろそろ沈黙も辛くなってきた。この前されたキスが上手すぎてせいもあってキスされたいという気持ちが強くなってきた。


「ねぇ大和? そろそろキスしよ? 」


少し離れて見た大和の顔は普段とは違った。必死に何かを抑えようとしている。衝動に突っ走らないように堪えているようにも見える。それは初めて見る幼なじみの顔だった。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る