第7話 幸せ

幼なじみにキスされると思うと変に緊張して肩に力が入ってしまう。肩に手を添えていた大和もそれが分かったらしい。


「大丈夫だから。」


初めてキスされるのに緊張しない訳が無いのにそう言われると安心してしまう。大和の大丈夫はお守りみたいなものだ。体調が悪い時いつも言ってくれる大丈夫とは意味合いは違うだろうがそれでもお守りみたいなものであることに変わりはない。肩の力を抜いて目を瞑る。これが大丈夫に対する僕なりの返事だ。少し間を開けて唇に温かいものが触れた。キスをされているうちに少し息苦しくなってきて口を僅かに開けると大和の舌が入ってきた。そのせいか変な声が出ているような気がする。このまま食べられてしまうんじゃないか、そう思った瞬間ゆっくりと唇が離れていった。息を整えて思っていた事を声に出した。


「なんで舌入れてきたの? 」


「そりゃ初恋の相手とキスしてるのに理性が働くわけないだろ。因みに息苦しくさせて口開けさせたのはディープキスしたかったから。」


「そのおかげで変な声出て恥ずかしい所を大和に晒すことになったんだけど!? 」


「俺からしたらめっちゃ可愛かったけど?それに付き合ったからにはこれより先の事するんだし。」


さらっと大和が放った爆弾発言を聞いていたら急に眠気に襲われた。体から力が抜けて大和にもたれかかるような姿勢になる。そう言われればキスしたら眠気が来るんだった。ふわっと体が持ち上げられる。お姫様抱っこ。いつもなら多少の抵抗はするが今は眠気が勝って抵抗する気なんて起きない。


「おやすみ。怜」


それから何時間か経ってようやく目が覚めた。窓から入ってくる明かりは柔らかいオレンジ色になっている。起きて時計を見ようとしたが起き上がれなかった。というより起き上がれなかった。大和が僕に抱きつくような姿勢で一緒に寝ていた。


「おーい。大和起きろー」


「ん〜 おはよ怜」


「おはようの時間ではないけどね。」


どうにか大和から解放されて時計を見てみると既に6時前だった。後ろでもぞもぞと大和が動き出した。


「この時間なら怜の母さん帰ってきてるな」


「多分そうだと思うけどなんで?」


「付き合ってる事と治療してる事言わないと」


「いや付き合ってる事はいいでしょ」


「付き合っても無いのにキスしたら問題だろ」


「まぁそうだけど...」


何か丁度いい言い訳がないか考えていたら大和に腕を掴まれた。ほら行くぞとでも言いたいのだろう。確かにいつかは言わないといけないから仕方がない。自分で説明するより大和が説明してくれた方が色々と助かる。リビングに降りるとお母さんが夕飯を作っていた。


「あっ大和くん良かったら夕飯食べていく?お味噌汁が思ってたよりもいっぱいできちゃって」


「頂きます! じゃなくって話があるのでちょっといいですか?」


うちのお母さんも大和もどこか抜けているところがある。普通息子の幼なじみに何よりも先に夕飯を食べていくか聞くだろうか。そしてそれにつられて本題を一瞬でも忘れるだろうか。


「大和くん話って何?」


「ストレートに言ってしまうと怜と付き合うことになりました。」


ストレートに言い過ぎだ。第一それを聞いたお母さんがなんて言うか考えていないだろう。幼なじみとはいえ流石にキツいことは言うだろう。


「あらやっぱり大和くん怜の事好きだったのね。もしかして鉱石病の治療も出来たり?」


「勿論です。というか1回しちゃいました。」


嘘だろお母さん。そんなにさらっと飲み込んでいいもんじゃないでしょ。そして大和は当然の如く報告するのね。


「ちょっと待って。お母さん何も言わないの!? 」


「何か言う事? あっいけない忘れてた。」


良かった。ちゃんと聞くよね。男同士だけど良いのかとかどこが好きなのかとかは流石に聞くよね。


「怜の事よろしくね。大和くん」


「はい。俺、怜の為なら何でも頑張ります」


「ちょっと待って!? 」


「怜どうしたんだ? 急に叫んで」


「男同士だけど大丈夫かとか聞かないのお母さん」


「え?付き合うのに男とか女とか関係ある?好き同士ならいいじゃない。好きな人と一緒の方が幸せでしょ? 」


「俺は怜の事大好きだぞ?怜も俺の事好きだろ? 」


「確かに好きだし一緒の方が幸せだけど」


「なら良いじゃない。はいこれで話は終わり。早くご飯にしましょ。お味噌汁が冷めちゃう」


色々ツッコミどころがあった気がしたがお母さんがそういうならいいだろう。「やっぱり」と言った辺り大分前から大和の事が好きだっていうのはバレてたみたいだし。


「頂きます! ん〜やっぱり怜の母さんのご飯美味しい! 」


「良かった〜。2人が付き合ってるのは大和ママにもメッセージで伝えておくからね」


「あざっす。ん? どうした怜。味噌汁冷めるぞ? 」


「あぁ。頂きます」


お母さんは僕が大和の事を好きだって分かってたのに否定するような事は1度も言ったことがないし、大和はずっと僕の事好きだったみたいだし。僕ってなんだかんだ言って恵まれてるんだな。そう思ったら急に涙が出てきた。


「えっなんで泣いてんだ!? 」


「お味噌汁熱かった? 」


「こんなに幸せでいいのかなって思ったら...」


「怜の事はこれからもっと幸せにしてやるよ」


そう言って照れくさくなったのかご飯を頬張り始めた。


「良かったわね。怜」


「 うん! 」


やっぱり僕は幸せ者らしい。

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