第6話 嘘みたい

まさか大和が僕の事好きだったなんて。しかも好きな人に思いっきり抱きしめられるなんて。嘘みたいだ。嬉しくなって僕も思わず抱きしめ返してしまった。


「なぁ怜? 」


「ん? どうしたの? 」


大和がやや不安そうな声で名前を呼んできた。大和が不安そうになることなんて滅多にないからこっちまで不安になる。


「その鉱石病ってやつ。俺が怜の鉱石食ってその...キスすれば治るんだよな? 」


柄にもなくキスの下りで声が小さくなっている。普段なんでもスパッと言ってしまう大和でも恥ずかしがる事があるなんて初めて知ったような気がする。


「まぁそうらしいよ。2、3回繰り返さないといけないらしいけど。」


「じゃあ今日から始めるか。怜の鉱石病の治療。」


「あぁ〜... お母さんになんて言おう。」


「んなもん俺がどうにかしてやるよ」


いつもどうにかするの一言で物事を納めてしまう。やると決めた事は絶対にやり遂げる。それが大和だ。だから不安は一切ない。


「じゃあお願い」


「てか鉱石ってどこに出てんの? 」


そう言われればまだどこに鉱石が出ているのかは説明していなかった。少し躊躇ったがTシャツの裾を捲り上げた。幸いな事に服から見える部分には出ていないから普通に図書館とかには行けるのだがこういう事をするとなると恥ずかしい。


「服で隠れてる所だけ出てるんだ」


「へ〜これって取るのって簡単? 痛くねぇの? 」


「うん 結構簡単に取れるし痛くないよ」


「へぇ んじゃ失礼」


お腹の辺りにあるやや大きめの鉱石に手を伸ばした。大きくて温かい手がお腹に触れる。少し擽ったくて思わず変な声が出た気がしたが大和が気にしていないならいいか。いつの間にか鉱石を取っていたようで手の中で転がしたり光を透かしてみたりして遊んでいる。


「ねぇ大和 遊んでない? 」


服の裾を戻しながら思っていたことをそのままぶつけてみる。


「怜が鉱石病だって聞いてから色々調べてみたんだよ。鉱石も色んな色があって綺麗なのに怜のは特に綺麗だなって思って。」


なんでこんなことをさらっと言ってしまうんだろう。ただただこっちが恥ずかしいのに。そんな僕の気持ちを全く気にせずに鉱石を口に放り込んだ。鉱石病の患者の鉱石は硬いことは硬いが精々金平糖とか飴ぐらいの硬さで噛み砕くことはさほど難しくないらしい。特にスポーツをしている人なら歯を大切にしているから普通の人より簡単だろう。案の定ガリガリと噛み砕いている音が横から聞こえてきた。


「......甘い」


「へ? 今なんて言った? 」


「なんか優しい甘さがする」


鉱石って意外と甘いんだ。そんな事を呑気に考えていたら大事な事を思い出した。大和が口に入れた分の鉱石を食べてしまったらキスされるんだ。そう思うと一気に顔が赤くなる。悶える暇もなく大和が食べ切ってしまった。


「んじゃあ後はキスすれば良いんだな」


そう言ってゆっくりと近づいてきた。優しく抱きしめられたかと思いきやすぐに離れてしまった。あ、キスされるんだ。そう思った時には既に大和の顔が目の前にあった。

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