第5話 もういいか

あの時怜の言葉を聞いてからずっとぼーっとしている。そりゃ勘違いかもしれないとも考えた事は何度もあるけどさ。でも勘違いじゃねぇんだよな。ほっとけないとかそういうのでもない。強いて言うなら守りたいとか近くにいたいとかそういうの。近くに居ると落ち着くしほっとする。怜が何しても許せるし、見返りなんて求めない。恋通り越して愛なのか。まぁ悲しい事にその感情は砕け散ったけど。あぁもうこうなったら全部怜にぶちまけてしまおう。うん、そうしよう。今日が土曜日で部活が無いのはきっとこの為だったんだろう。


〘今から怜の家行ってもいい?〙


〘勿論いいよ〜〙


服を着替えてスマホと財布だけ手に持ってリビングに居る母に向かってひと声かける。


「ちょっと怜の家行ってくる」


「はいはい あんたも怜くん好きねぇ」


最後にボソッと聞き捨てならない事を言った気がしたが今はそんな事に構ってられない。

怜の家の玄関のドアの前に立つのにこんなに緊張した事なんて今までにあっただろうか。中々ドアを開けられずにいると急にドアが開いた。


「大和何やってんの? 暑いでしょ」


「あぁ ちょっと考え事 」


「へぇ 大和も考え事とかするんだ」


「失礼な笑」


どうやら両親は居ないらしい。ある意味好都合だ。息子が幼なじみの男に告白されてるのを見たら大変な事になるだろうし。それはどうでも良いけどめっちゃ緊張してきた。幼稚園に入る前からの幼なじみに告白っぽい事するなんてヤバいな。もう考えるだけ無駄だ。部屋に入ったらすぐに切り出そう。じゃないとダメな気がする。

部屋に入っていいつも通りベッドに腰かける。その瞬間に俺は口火を切っていた。


「なぁ怜。今から言う事聞いてくれるか?」


「どうしたの改まった感じで。まぁ話しは聞くけど」


心臓が馬鹿みたいに五月蝿い。10年分の想いを今伝えるなんて現実離れしている気がする。でも今言わないと二度と言う機会が無くなる。


「実は俺怜の事好きなんだ。いや、好きなんてもんじゃなくて最早愛してるの方が近い。」


怜は驚いた様な顔で俯いてしまった。あぁやってしまった。そりゃ好きでもない相手からそんな事言われても困るだけか。しかも良く考えたらめっちゃ重いこと言ったし。こういう時に限っていつもの馬鹿っぽい感じが発揮されないのは何でなんだ。いつもならサラッと誤魔化すだろ。


「あ〜... 今のは忘れてくれ。なんでもない事だから。あっそうだ。数学教えてくれよ 。今やってるとこ全く分かんねぇんだよ。」


我ながら白々しい誤魔化し方だと思った。一方的に言っといて忘れてくれだの急に勉強教えてくれだの。しかも怜はずっと下向いたまんまだし。


「怜ごめんな。急にあんな事言って。せめて顔上げてくれないか?」


ゆっくりと顔を上げた怜は泣いていた。泣いた怜は何度も見た事があるが今回ばかりはどうしたらいいか分からなかった。いつもなら頭撫でるか抱っこして落ち着かせてるけど今それをしたらなんか色々ダメだろうし。


「ねぇ大和それほんと?」


「今まで俺が嘘言ったことねぇだろ」


「だよね なら僕も本当の事言っていい?」


「あぁ勿論。」


はい。俺の片想い終了のお知らせ。きっと怜は優しい嘘つくつもりだったんだろうな。本当の事ってきっと俺は恋愛対象じゃないって事だろう。怜はどこまで優しいんだよ。


「僕も大和のこと好きだよ。いや、好きじゃない大好き。」


その一言を聞いた瞬間俺は怜を抱きしめていた。いつも落ち着かせる時よりも強く抱きしめた。熱いものが頬を伝えような感じがはっきりと分かった。泣いたのっていつぶりだろうか。とりあえず今離れたら情けない所を見せてしまう。そう思ってもっと強く抱きしめた。怜もそれが分かったのか抱きしめ返してくれた。相当強く抱きしめている筈なのに痛いとも言わなかった。








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