第4話 大丈夫か?

ここ何日か怜が学校に来ていない。メッセージ送っても既読は着くけど返事はない。よし。門前払いされる覚悟で家に押しかけるか。


「おい大和 今日」


「わりぃ用事あるわ」


部活の友達が声をかけてきたが話を遮って秒で断った。学校からダッシュで走れば怜の家までは10分もかからない。息が切れる前に怜の家に着いた。一応怜の母さんと顔を合わせるわけだからシャツの上のボタンを閉めて襟を整える。インターホンを押すと聞き慣れた女性の声がした。


「はい いおりです。」


「大和です。怜が心配で来ちゃいました。」


それだけ言うと怜の母さんが玄関のドアを開けてくれた。やっぱり怜は母親似だな。


「大和くんわざわざありがとう。」


「怜の部屋行ってもいいですか?」


「うん。怜も会いたがってるから。」


幼稚園の時からよく遊んでいるから家の構造は頭に入っている。2階に続く階段を登って右の部屋が怜の部屋だ。


「怜。開けていいか?」


「えっ 大和? いいよ」


案の定怜は本を読んでいた。俺が読んでも理解出来ないような字がいっぱい並んでる小説。キチンと栞を挟んで机の上に置くとベッドに腰掛けた。俺も流れでベッドに座る。久しぶりに見る怜は華奢でふっと消えてしまいそうだった。


「怜どうした?最近ずっと休んでるけど」


沈黙が五月蝿かった。今まで俺達が話してる時に沈黙なんてなかった。阿吽の呼吸とでも言うのだろうか。何を言ってくるか大体分かるから言われる前に答えを用意しておく。だから沈黙がなかった。今回は予想外の事を俺が言ってしまったんだろう。怜はおずおずと話を切り出した。

「大和は鉱石病って知ってる?」


「あぁあの体から鉱石が出てくる奇病?だったよな」


「うん 実は僕それなんだ」


「嘘だろっ... 治療法は?あるんだよな」


自分でも分かる程の情けない声が出てしまった。幼なじみが奇病。しかも鉱石病って奇病の中でも難病の分類だ。


「あるけど僕のは特殊だから薬がないんだ。たった1個だけ方法があるけどそれも無理なんだ。」


「その1個の方法ってなんだ。俺が出来ることなら手伝うから。」


大事な人を失いたくない。俺の幼なじみで初恋の人を。俺の片想いなんて一生報われない。だからせめて怜が幸せであってほしい。中々口を開こうとしない怜をじっと見つめる。どうにか誤魔化そうとしても無理だと察したのか諦めた様子で


「好きな人が僕の鉱石を食べてキスしてくれないといけないんだって。片想いじゃなくて両想いで。」


「そうなのか。好きな人居るのか?」


「居るけど両想いにはなれないよ」


どういう事だ。怜はかなりモテるはずだ。女子からは真面目で優しいだとか誠実そうだとかよく言われている。文化祭やら体育祭なんかの行事の後は毎回数名から告白されている。なのに両想いにはなれないって。


「.......男の子なんだ。僕が好きな人。」


聴き逃しそうなぐらい小さな声でボソッとそう言った。


「それって誰なんだ?よかったら教えてくれよ」


一瞬だけ視線を外した怜が恥ずかしそうな顔で


「格好良くて優しくて守ってくれる人」


とだけ言った。あぁ。終わったな俺の片想い。格好良いと言えば隣のクラスのあいつか。守ってくれると言えば空手部のあいつか。悶々と考えていると怜が顔を覗き込んでいた。


「大和大丈夫?体調悪いの?」


「なんでもねぇよ笑 時間も時間だし帰るわ」


別にいいと言ったのに怜が玄関まで一緒に来てくれた。普段は嬉しいのに失恋した直後にはかなりしんどい。


「じゃあね大和」


「また遊びに来るわ」


それだけ言っていつもより早足で怜の家をあとにした。怜に泣きそうな情けない顔を見せたくなかったからだ。角をひとつ曲がった所で限界が来た。10年以上の片想いがこんな形で終わるなんて残酷すぎる。せめて真正面から行って振られたかった。


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