酒場の喧騒

「おい、小僧さっさといくら賭けるかを決めろよ」

目の前に座り共にポーカーに興じてる大柄な男は湯気が上がるんじゃないかと思うくらい真っ赤な顔して僕に言い放った。

もし僕に胆力があったなら「落ち着けよ、ギャンブルってのは冷静にならないと勝てやしないさ」というタフなセリフを吐けたかもしれないけどそんな勇気は無いし、何より僕だって泣き出したくなるくらいの金をすでに吐き出して、彼と同じくらい余裕は無い。

8歳の頃にダイムノベルを親に買ってもらって、その物語にのめりこんでいつか僕もこのアメリカを旅して多くの伝説を手記に記してそれを出版するんだと夢見てその夢を実現すべく家の金庫から300ドルほど、そして護身用に机にしまい込まれていた拳銃を引っ提げて馬に乗りあてもなく旅に出てたどり着いた最初の建物がこの酒場だった。

てっきり酒場になら人がたくさんいて、僕が小説のにしたいガンマンの話やギャングの話が聞けると思ったら、店にいたのはバーテンの男だけで、他は全然人気がなく、墓場だってもっと賑やかだろうなと思える状態だった。

早々に帰ろうかと思ったら立て続けに二人の男が入ってきた。

片方は大柄、もう一人は恐ろしいほど白い顔で時折咳をしていて何をどう考えたってこんな場所ではなく病院にいるべき様子の男だった。

その二人はお互いに面識はないようで最初は離れて飲んでいたが、白い顔の男が

「どうだい、何もすることがないならポーカーでもして遊ばないか?」と僕ともう一人に声をかけてきた。

もう一人の男は自信満々に「いいぜ、テメェの財布を空にしてやるよ」と二つ返事でテーブルに座った。僕はといえば、ルールはわかるけど今まで賭け事なんてやったことがなかったから最初は断ろうかと思ったが、金の魔力とは恐ろしいもので300ドルという大金が僕の気を強くした。

「いいよ、僕もやろう」これが悪夢の始まりだった、もしも戻れるならこの瞬間に戻って僕の頭を銃のグリップでぶん殴り「馬鹿なことをするな」と言ってやりたい。

最初のゲームをものにしたのは大柄な男だったが、その直後からは白い顔の男がすべて勝ち続けた。早々にやめておけばよかったのに僕はギャンブルの引き際が見えておらず次こそは、次こそはと少しずつしかし確実に破滅に向かっていった。


「おい!さっさとしないか!いくら賭けるんだクソガキ!」

真っ赤な男の顔が僕を現実に引き戻した。そうだ賭け金だ、今僕の財布には50ドル、どうすればいいかわからない、わからないが

「5ドル・・・だ5ドル賭ける」

場に合計15ドルが散らばる。配った5自分の枚のカードを見た。

中身は「♡5♠5、9、♢3、Q」幸い1ペアは出来上がっていた。

ふとそれぞれの顔を見てみたら大柄な男はまぁ、見るからにいい手なんだろうっていうことがわかる顔だった。さっきまで怒りその物みたいな顔をしていたのにいまや脳みそが鼻からとろけ落ちたんなじゃないかってくらいのにんまり顔だ。こんなにもわかりやすいのになぜこの男は自信満々にポーカーに臨んだのか、もしかしたら本当に鼻から脳みそがとろけ落ちていたのかもしれない。

一方白い顔の男はといえば一貫してなんの表情もない。その白い顔は仮面なんじゃないかと思うほど変わらない。騒がしい片方の男とは正反対に時折出る心地の悪い咳以外は必要最低限の声さえ出さない。それでいながら病人なんだろうからと腕っぷしで潰しに行ったらろくでもない目にあうだろうという雰囲気を醸し出していた。もしこの男が地の果てからやってきた幽鬼だと言われても僕は簡単に信じるだろう、そう思った。

そんなことを考えながらも場は回っていく。ワンペアと♢のQを残してカードを交換したがこのワンペア以上に手が変わることはなかった。二人の様子はさっきと変わらない。

「なぁ、どうする?降りるか?」白い顔の男が僕に聞いてきた、そうだ決めなきゃ、ずっと負け続けた僕の心はもうどうすればいいかわからなかった、こんなに負けてしまった以上このまま引き下がれない。なによりこのまま金も失ってどこも行けなくなっておめおめと家に帰ったらどうなるか、多分僕は両親からすさまじい制裁を食らうだろう、奴隷の生活の方が生活感のあるような目にあうことは請け合いだ。

だけどほんのワンペア。5ドルかそれともこの後のレイズ次第ではそれよりも多い金をこんな手に賭けるのか。顔中から汗が止まらない。日照りの地域の人々なら涙を流して僕の汗を集めて農作業にでも使うであろう量の脂汗だった。

「病人の俺よりも顔色が悪いな、病院に行った方がいいんじゃないか?」白い顔の男が初めて必要最低限以外の口を効いたかと思ったら縛って線路に転がしてやろうかと思うような煽りの言葉だった。今すぐにでも激怒しそうで僕はわかりやすく冷静さを欠いていたがふと目が行った自分の手札の貧弱さを見てまた冷静でいられるようになった。しばらく考えたが僕の答えは「ダメだ・・・降りるよ」

こんな手で勝負はいけなかった。状況が違ったら勝負に行ったかもしれないが250ドルも負けていた僕にそんな勇気は残されていなかった。大柄な男が口を開いた

「なんだ腰抜けめ、まぁいいさ。おい病人、お前はどうすんだ?」

「俺はレイズだ」

「ああそうかい、いくらだ?」

「100ドル」

ここで今日一番のレイズの声だ。一度の勝負に100ドル、正直普通じゃない金額でどのみち僕は降りていただろうと思っただろう。

「フン、ハッタリに決まってる。いいぜ100ドルだな」ずっと負け続けてるのに相変わらずどこから湧き出るのかわからない自身をたぎらせて大柄な男は言い放った、もしコイツの自身の沸き方が金脈だったら何世代も遊んで暮らせるだろう。

そして彼が自信満々にたたきつけた手はAの3カードだった。

「どうだ!ほらさっさと100ドルを寄越せよ!」

「何を焦ってるんだ、俺の手を見ろよ」

そういうと白い手が空けた5枚のカードの中身は♣のフラッシュだった。

怒りで爆発しそうな大柄な男の顔は今日一番の赤さで、機関車の炉に入れれば大陸を通り過ぎてイギリスまで走っていくだろうと思える色をしている。

「テメェこの野郎!病人だからってつけあがりやがってイカサマだこんなもの!」

「おいおい、証拠はあるのか?いいから仲良くカードを続けようぜ」

激昂してる男に対して白い顔の男はひどく冷静だ。

「クソッタレが。ゲンが悪い、少し飲んでくる。そのあとに病人、また勝負だ!そのまま座っとけ逃げるんじゃないぞ」

そういうと大柄な男はやかましい足音を立ててバーテンの元へ歩いて行きバーボンをあおっていた。今このテーブルに座ってるのは白い顔の男と、僕の二人だけで、

勿論初対面だしその上僕はこいつにものすごい金を毟られていたからひどく居心地が悪い。

「一体なんでこんな酒場にいるんだ?」先に口を開いたのは白い顔の男だった。

「別になんだっていいだろ」僕は投げやりに答えた。そりゃそうだ、誰だって自分から250ドルも毟った男に話しかけられたら不機嫌になるだろう。

「まぁそう言うな、どうせアイツが返ってくるまで暇なんだ。仲良くしようぜ」

どのツラを下げてこんなことを言いてるんだろう。そのまま無視しようとしたその時

「ほらこれをやるから少しは機嫌を直せ」

そういうと彼は結構な量の金を僕に差し出した。多分だけど50ドルはある。

「ほら、あのバカが酒に夢中なうちにさっさと受け取りな。そうしなきゃアイツ喚くぞ」

なぜこんなことをするかわからなかった、罠かもしれないと疑ったが素寒貧になるのはまっぴらだったからそのまま素早く財布にその金をしまいこんだ。

「さて、じゃあもう一度聞こうか。一体なんでここに来た?」

流石に金をもらった以上はしっかりと答えなきゃ申し訳ない気がして白状することにした。

「僕は・・・僕はダイムノベルが好きでいつか小説家になろうと思ってたんだ。それで最近何が起きたかとか、ガンマンの有名な話とかを聞いてそれをネタに本を書こうと思ったんだ、それで家を飛び出して最初に訪れたのがここだったんだ」

男はうっすら笑いながら話し出した。

「すると、そんな熱い心持で踏み出した結果がこのザマって事か」

頭に血が上るのを感じた。この男は人を怒らせることに関しては天才的かもしれない、もしそんな競技があったらコロンブスのように有名になっていただろう。

「それで?いろんな話を聞いてと言ったが、何か書きたいガンマンの話や事件の話は今のところあるのか?」

男の質問は続いた。僕が書きたいものが今のところ一つだけあったのでそれを答えた。

「トゥームストーンって場所のOK牧場でワイアット・アープとギャングの銃撃戦があったろう?それの話を細かく聞いて本にしたいと思ってるんだ」

今から何か月か前にトゥームストーンという町でアメリカ一有名な保安官、ワイアット・アープと彼の兄弟、そして彼の友人であるドク・ホリデイという男が町を牛耳っていたギャングと銃撃戦になったらしい。

その銃撃戦が行われた場所がOK牧場の近くだったから人々はOK牧場の決闘なんて名前でこの事件のことを話している。ただこの話には色々な説があり、ある人はワイアットが先に喧嘩を売ったとか、ある人はその反対だとか、誰が撃ち殺されて誰が生き残ったかとある程度の話の大筋は一緒でも話す人によって内容が微妙に異なる事が多かった。

だから僕はこの話をいろいろな人に聞き個人的にこうだという結論を付けてそれを物語として書こうと思っていたのだ。

そこまでの内容を男に説明した。どうせまた馬鹿にされるのだろうと思っていたが彼の答えは意外なもので、

「なるほど、自分なりの結論をいろいろ聞いたうえで出そうとすることはいいことだ」

「てっきり馬鹿にされるかと思ったよ」

「俺はお前さんのポーカーの腕は酷いもんだと思っているが、自分の夢に向かって行動することと、自分でしっかりと物事を判断しようとしてることはいいことだと思っているさ」

彼はてっきり口が悪く横暴な男なんじゃないかと思ったらどうやら違うようだ。

男はポケットから煙草を取り出してそれに火をつけた。そしてもう一本の煙草を僕に差し出した。

「どうだ?吸うか?」

勧められたところ悪かったが僕は煙草を吸ったことがないし吸う気もない。そんなことより気になることがあって

「それを吸って大丈夫なのか?体の調子悪そうだけど」

見ず知らずの人間だし金を取られてても彼の心配をしてしまうのは僕がお人よしだからだろうか。彼は笑いながら答えた。

「大丈夫じゃなくても吸うんだ。これからいただけるひと時はその価値がある」

とてもじゃないがこの乾いた草を巻いた筒がそんなにも魅力的なのか、僕にはさっぱりわからない。彼が煙草をふかしているときふと疑問に思ったことがあった、気が付くとその疑問は僕の口から飛び出していた。

「ところであなたはいったいここに何しに?」

そう聞くと彼は答えた。

「なに、ちょっとポーカーで遊びたかっただけさ」

「それは嘘だ、あなたはどうやら相当ポーカーが強いようだ、だったらなんでこんな酒場の一角で遊んでいるんだ?もっと金になりそうな賭場に行った方がいいに決まってるだろ?他に目的があるはずだ」

そういうと彼は方眉を上げて僕の方を見た。その顔にはこいつはどうやら思っているほど馬鹿じゃないようだという思いがチラリと見えた。

「思ったより想像力があるようだな。なぜポーカーでそんなに負けたのか本当に不思議だ」

一々煽らなきゃこの男は呼吸ができない生き物なのだろうか。

「まぁ、いいさ。その想像力に敬意を払って目的を少し教えてやろう。ある人物を探してる。それで色んなところを転々としていてたまたまこの店に入っただけだ」

核心的なことは話していないのだろうが大筋については思ったより簡単に話してくれた。てっきり教えてやるからさっきの50ドルを寄越せとでも言われるのかと思った。「誰を探してるんだい?もし知ってたらどこで見たとか教えてあげようか?」

「いや、それは結構だ。いいとこの坊ちゃんが知ってるような男じゃないさ。」

断られるような気はしていたが何となくいいとこの坊ちゃんという言葉が気になった。別にそのまま気にせず聞き流せばよかったがつい噛みついてしまった。

「いいとこの坊ちゃん?なんでそう思うんだ?身の上の話をした覚えはないけど?」すると男は薄ら笑いで答えた。

「簡単な話だ、手記を出そうとしてるってことは文字の読み書きが出来るって事だ。つまりちゃんと教養のある奴だってことがわかる。」

なるほど、根拠がちゃんとあるみたいだ。彼はさらに続けた

「ついでにずいぶんな大金を持っていただろう?さっきの話だと家から飛び出してきたあと最初に入ったのがここだって言ってたってことはその金はおそらく家から持ち出したものだってことだ。とっさに大金持ち出してくるってことはそれなりに金持ちってことだ。どうだ当たってるか?」

どうやらこの男馬鹿じゃないらしい。むしろかなり聡明な人物だ。

「話は逸れたが、まぁ兎に角人探しだ。別にそれだけさ」

何となく話をはぐらかされてが、どうにも目的が気になってさらに追及しようとしたその時だった。

「おい、続きをやるぞ!」

大柄な男が返ってきた。できればそのまま飲みすぎで倒れていてほしかったがそうはいかないようだ。

「ほら!さっさとカードを配れよ病人野郎が、小僧お前はどうすんだ?」

さっきもらった50ドルも合わせて100ドルはあるが、僕はもう金をとられるのは御免だった。

「いや、僕はコリゴリだ二人でやってくれ」

「腰抜けもここに極まれりだな。おいじゃあ一騎打ちだ。親はお前だ、いくら賭けるんだ?」

すると白い顔の男は言った。

「どうせあんたは負けを取り戻すまでやめない無い気だろ?じゃあお互いの持ってる金全部かけて降り無しの1発勝負ってのはどうだ?」

それを聞くと大柄な男は満足そうに「いいだろう、全部金を奪ってやる」

隣のテーブルから椅子を借りて僕はその勝負の行方を見守ることにした。

それぞれが出した金額は大柄な男が120ドル、白い顔の男が400ドルでどう考えても白い顔の男のリスクが大きかったが本人は一切気にして無いようで早速カードを切ろうとしていた。だが大柄な男がそれを制した。

「おっとこの金額が一度に賭けられているんだ、イカサマしないとも限らないからそこに座ってる小僧にカードを配らせろよ」

それに対して白い顔の男も同意したがゆえに僕は全く予想外の立場でこのゲームに参加することとなった。とは言え僕のやることはカードを配るだけだ。どちらにも特に思い入れのない相手で、いや厳密には白い顔の男とは多少話したがそれでも他人の域を出ないわけだからどっちの肩を持つような配り方、イカサマの心配は双方に無いだろう、確かにこれなら平等でイカサマの余地はないだろう。

僕はさっさとカードを配ってその勝負の行方を見ていた。こんな大金が賭けられた勝負はそうそうみられるものじゃない、てっきりバーテンの男もこの勝負を見ているのだと思ったがどうやら彼は裏の物置に何かを取りに行ってるらしい。ゲームで負けた僕が言うもんじゃないがこの勝負を見れなかったバーテンも運のない男だと思った。

カードを配り終えそれぞれが自分の手を覗いている。白い顔の男は相変わらず無表情で手は読めない、一方大柄な男といえば今日一番のいい手が入ったと勝ち誇ったような表情をしている。

「いい手が入ったようだな?ばれちまってるぞ」白い顔の男は挑発するように言ったがそれに対して大柄な男は

「ばれようが関係無いな、どうせ一発で決まるんだ。お前は自分の不運を悔やむんだな」

早くも彼は勝ったと思ってるようだ。それで今日負け続けているのを忘れてるのは酒の影響か単純にこの男が馬鹿なだけなのか。

その後、それぞれがカードを交換した。大柄な男は1枚を、白い顔の男は2枚を交換した。

最初の話通り、降りる選択肢はないのでもうやることはお互いのカードを示し合わすだけだった。

大柄な男が自信満々に手を開いた彼の手は「♡1、♠1、♢1、♢2、♣2」フルハウスだ。なるほど確かに自信のある手だ。

「さぁ!手を見せろよ病人、それでその金を全部差し出せよ」

流石にこれは決まっただろうと思ったが、白い顔の男はこんな時でも表情を曇らせていない。けれども僕には強がりにしか見えなかった。そしてそっと手が開かれた、その中身は

「♡5、♢5、♣5、♠5、♠9」の4カード、信じられないことに白い顔の男がこの勝負を制した。が、そうなると気になるのは大柄な男の方だ。彼の表情を見ると今日一番の赤い顔をして突然立ち上がった。

「テメェ!この野郎ぶち殺してやる!」受け入れられない敗北のせいか、イカサマを疑った怒りかその正体はわからないが激しい怒りを爆発させ彼は腰にぶら下げていた拳銃に手を伸ばしそのまま引き抜いた。

その瞬間全ての動きがゆっくりに見えた。目の前で一人の男が殺されそうになっているなんて状況だ、もっと焦るべきなのだろうが体は動かなくとにかくそのゆっくりとすぎる光景を見ているしかなかった。だがその時間も轟いた銃声を皮切りにいつも通りの時間の進み方に戻った。

放たれた銃声は2発、そして胸に2つの穴が開いていたのは、大柄な男の方だった。

信じられない早撃ちだった、白い顔の男は銃に手をかけるタイミングこそ大柄な男より後だったものの見たこともない速さで銃を引き抜きすぐに2発の銃弾を叩きこんだ。

大柄な男は信じられないといった表情でその場に立ち尽くし何かを言おうと血の流れ出ている口から声を発しようとしたが、ついに彼の口から声が出ることなくそのまま糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

「なんだこりゃあ・・・保安官!来てくれ!」銃声を聞いて物置から出てきたバーテンがすぐさま保安官を呼びに行った。その喧騒のさなか当の本人である白い顔の男は涼しい顔をして僕に向かってこう言った。

「俺はあいつが銃を引き抜いた後に返り討ちにした、これは正当防衛にあたるな?目撃者はお前だけだ。証言を頼むよ」

信じられないほど当たり前のように僕に声をかけているが、普通は人を撃った後なんだからもっと焦っていてもいいはずだ。でもこの男には一切の焦りがない、多分だけど人を撃ちなれているんだ。もしかしたら、いやもしかしなくてもこの男は僕が想像しているよりもずっと恐ろしい男なのだろう。

「おいどうした?何をぼぅっとしてる?頼むからちゃんと証言をしてくれよ」

そうだ、証言だ。目撃者は僕だけだ、そう僕だけなんだ。その時僕の頭に妙なアイディアが浮かんだ。

「いいよ、証言しよう。だけど条件がある。あなたは誰かを探して旅をしてるんだろ?その旅に僕も連れて行ってくれ。それが条件だ、聞けないっていうならあなたが先に撃ったと証言する」

そういうと今までマスクなんじゃないかと思った無表情が曇るのを見逃さなかった。

「なんだと?悪いがお前のようなガキを連れて行く気はない、それにどんな理由で俺の旅にご一緒したいんだ?」

「小説のタネさ、OK牧場の話もいいがそれはいずれ誰かが書くだろう。ネタがかぶってしまったら単純な話競争相手が増えるわけだ。だけどあなたの旅は少なくともかぶる心配が無い。僕が第一人者で物語を書ける。その方が同じ題材を書くよりも読み手が分散することが無いからだ」

この男は確かに恐ろしい男なのだろう。だけどこの男の旅に同行すればOK牧場の一件よりも素晴らしい小説のネタになるだろうと思った。根拠なんて何もないが直感でそう思って、僕の直感とこの恐ろしい男に付いて行ったら危険だという考えの選択肢を天秤にかけてみたところ、僕の直感に軍配が上がった。

外で馬の走る音が聞こえる。保安官が到着したみたいだ。男はまだ神妙な顔をしている。僕は畳みかけるように聞く。

「さぁ、聞かせてくれ。僕を連れていくのかそうじゃないのか」


それからすぐにバーテンが保安官を連れて帰ってきた。

何人かの保安官が酒場に入るなり僕たちに動くなと命じて、一人の保安官が僕に聞いてきた。

「君が目撃者か?どのように彼は殺された?」その質問を聞いてきてそれに対する僕の答えは

「倒れてる男が先に銃を引き抜いて彼は自分の身を守るために反撃をしました。彼は身を守るために銃を撃ちました」

交渉は成立だった。


その後、形だけの裁判が開かれた。状況も証言も矛盾は無かったが故にすぐに男は無罪となった。そりゃそうだ彼に非はないのだから。


それからすぐに彼は馬に乗り込み、僕もそれについていく。そう言えばこれから一緒に旅をするのにお互いの名前も知らないじゃないか。

「そういえば名前は?僕はポールだ」

彼はポーカーをしていた時と同じ無表情で答える。

「・・・ロバートだ、ロバート・リード」

こうして僕と白い顔の男ロバートの旅が始まった。一体彼は何が目的でどこまで向かうのか、おそらくは教えてはくれないのだろうが構わない、彼についていけばいずれそれも見えてくるだろうさ。






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