第6話 上賀茂さん(4) (いつもウ○ッシュ)
悄然とする
上賀茂の勤勉さ、真面目さは美点であると常々思っていたが、己を厳しく律するあまり自分を追い込んで傷つけてしまっていては、本末転倒である。
「雷馬はさ、考えすぎなんじゃないかな。千数百年も私たち働き詰めだったじゃない。休暇をもらえたと思って、しばらくのんびりさせてもらおうよ」
「でも、そうしたら、どんどん仕事ができなくなって、もっとダメになってしまう」
テーブルに両肘をついてデザートのメロンをフォークでぷすぷす刺す様子を眺めながら、下鴨は嘆息する。
おそらく、上賀茂が今一番恐れているのは、誰からも必要とされなくなることだ。見放されたくないから誰にも迷惑をかけられないし、少しでも立ち止まれば評価が下がってしまうと思い込んでいるから、がむしゃらに進み続けるしかない。
「大丈夫、雷馬は全然ダメじゃないからね。それに、休むというのは怠けることじゃない。次に進むための準備だよ」
「そんなのは屁理屈だ」
「屁理屈でも何でも良いから、そう考えてみなさいな。雷馬にとって許し難いくらい極端な考え方をしたって、根っこの真面目さが引き戻してくれるから、ちょうどいい
「そういうものなのか」
「そういうものだよ」
腑に落ちない様子の上賀茂に、そういうものだと幾度も繰り返す。
「あとは、溜め込まないで、いつでも私のところへ話においで」
「でも、暗い話をされたら兄者も鬱陶しいでしょう」
「それよりも、頼られて嬉しい気持ちの方が強いものだよ」
「そういうものなのか」
「そういうものだよ」
「そうか…」
安心したのか、出し切ったのか、目の前の悩める酔っ払いは、かくんとうなだれて健やかな寝息を立て始めた。
下鴨は眠りについた上賀茂を背負い、部屋へと戻った。
翌朝、下鴨たちは名物の釜風呂に入った。お湯のない、蒸し風呂である。
「いろいろなものが流れ出ていく気がするね」
「暑くて何も考えられないな。酒も抜けていくようだ」
寝起きこそ頭が痛いとぼやいていたが、すっかり通常運転に戻ったようだった。
風呂上がりの後の朝食が絶品であったことは言うまでもない。上賀茂は憑き物が落ちたように晴れやかな顔をしていた。
「やはり、下鴨相談室の名は伊達じゃあなかったな。さすが兄者だ」
「そんな相談室を開いた覚えはないのだけれど」
「兄者に相談すると悩みが解消される気がするというもっぱらの噂だ」
「気がするっていうのがミソだね。噂はどこから」
「
ならば一緒に行こうと誘ったが、上賀茂は首を振った。
「遠慮しておこう。彼女とはあまり馬が合わないんだ」
「君のところの馬は
噂をすれば、白馬の迎えがやって来た。
「おい、何か言ったか」
「おやおや、地獄耳だね、何にも言ってないよ」
とぼける下鴨を神山号が睨みつける。
「ではな、兄者。また連絡する」
「いつでも待っているよ」
互いに別れ、下鴨はのんびりと高野川沿いを歩いて帰途に着いた。
今日の下鴨さん 猫じゃ @nekoja
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