第5話 上賀茂さん(3) (家で飲むときは)
「だからぁ、ぼくはぁ、このままじゃぁダメなんですよぅ」
目を真っ赤に充血させた
一方、向かいに座る
ここの料理の何と美味いことか。
今日は
「兄者ぁ。ぼくはどうすればいいんですかぁ」
いよいよ上賀茂が目に涙を浮かべ始める。
上賀茂は
「ぼくはぁ、もう、自分の存在意義がわからないんですよぅ」
下鴨や上賀茂たちは神と人間とをつなぐ、人間以上、神未満の存在である。人間の姿も取れるが、直接神と話をすることもできるし、寿命もない。
彼らが人の姿で現れて人々に神の
熱心に祈る者があれば、その者の素性を調べ、日頃の行いを観察し、願いを叶えるに値するか否かを判断できるよう検討材料を揃えた。悪さをしている者がいると聞けば、見廻って真偽を確かめた。
さらに神の身の回りの世話も大切な役目である。供えられた品を本殿に運び入れ、
つまり、人間にとっても神にとってもなくてはならない存在であったし、彼らも己の存在と役割に誇りを持っていた。
それが、昨今の科学技術の進歩、とりわけデジタル化によって大きく変わることになる。
神職や
時折り切なる願いがあっても、その者の情報は<神界の
つまり、人間にとっても神にとってもなくても障りない存在になってしまったし、彼らも己の存在と役割に疑問を持つようになった。
「神の身の回りのお世話って言うけどぉ、デジタル社会になってどれくらい?会議の場の手配ならわかりますよ、用意しますよ。だけどねぇ。オンライン会議くらい自分で準備して参加してよって思いませんか、ねえ兄者」
上賀茂は焦点の定まらない目つきで虚空を睨みつけ、ぐいと酒を飲み干した。下鴨が酌をするまでもなく、手酌で並々と注ぎ入れる。悲しみが次第に怒りに変わってきたのか、語気が荒くなってゆく。
「神だからっていつまでもあぐらかいてちゃあダメでしょう。もう大抵のことはオンラインで済ませられる時代になったんだ。いつまでも数百年前の感覚でいられても困るんだ。ぼくは雑用係じゃないんだ!」
でも、と今度は
「でも、そうしたら、僕は何のために存在しているのですか」
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