第8話 ラーメン屋にて2

注文したものが届いた。

俺としては早く食べたいが、何やら彼女がもじもじしている。


「どうした?」

「……いや、やはりヒーローたるもの、食事もどこか違うのかなと」

彼女は期待のまなざしでこちらを見ている。


まずい!このまま普通に食べたらヒーローじゃないとばれてしまうかもしれない!

それは何としてでも防がねば……

しかしどうすれば……

そんな時、ラー油が目に留まる。


「お前はヒーローに大切なものを何と心得る?」

「……?やはり強さでしょうか?」

「いいや違う。それも確かに必要だが、それ以上に大切なものがある」

「と言うと……」

彼女が生唾を飲んだのが手を取るようにわかる。


「それは……正義の心、情熱だ」

すると彼女は合点したような表情になり

「そうですね!」

と、頷いた。


「そう、で、その情熱を鍛える方法というのが……」

そして俺はおもむろにラー油を手に取る。

「これだ」


彼女は首を曲げる。

「ラー油?」

「ああ、情熱とは熱いものだ。熱さとは辛さだ。だからこれが最適なんだ」


彼女は大きく頭を縦に振る。

「よし、ではさっそく実践だ」

そして俺は彼女のバクダン炒め定食にラー油をどんどんかけていく。

俺にラー油が回って来ないようにどんどんかけていく。


そして、もともと辛く味付けされているため赤いそれは、真っ赤になった。

ラー油の瓶は空になった。

彼女は悶絶している。


「あ、あのぉ、田中太郎様、今からこれを食べるということでよろしいでしょか……?」

「ああ、そうだが。ヒーローはみんなこんなもんだぞ?」

俺はさも当然のごとく話す。


彼女は息をのむ。

「……いただきます……」

そして彼女は真剣な面持ちで手を合わせ、一口運ぶ。


「~~~!!!ひゃひゃいへふ!!!(辛いです!!!)」

「おお、そうかそうか、じゃあ、まだまだだな」

彼女はお冷を一気に飲み干す。

俺は俺の唐揚げ定食に手を付けようとする。


「田中太郎様!お手を煩わせるようですが、どうかお手本を見せて頂きたく!」

俺は持ち上げた唐揚げを止める。

……ん?


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