第19話
私は今日から
ドカドカとガニ股で歩く灰音ちゃんに小走りでついていく私。そんな私を横目で捉えると、彼はすぐに速度を落としてくれた。さすがスパダリ。
寮から出て学園の敷地に入るとジロジロと好奇の目に晒される。私のことを知らない他のクラスの大勢の人間に見られている。その居心地の悪さに泣きそうになっていると、それにすら気付く灰音ちゃん。
「何見てんだゴラァ」
そう周りに威嚇してから私の手を取って引けば、彼の行動に辺りが騒がしくなった。既視感。
「なに?転校生?」
「柳楽くんの彼女?」
少し前を歩く灰音ちゃんから舌打ちが聞こえる。煩わしいんだろうな。
「めちゃくちゃ可愛くね?」
「誰だ今の殺すぞ!!」
誰かの言葉が終わらないうちに灰音ちゃんが叫び出す。勢い余って繋がれた手が離れてしまった。
「は、灰音ちゃんっ」
「なんだよ?」
飛びかかってしまいそうな彼のブレザーを掴めば灰音ちゃんはちゃんと止まってくれた。
「手、離しちゃだめ……」
「ング……ッ!!」
振り返った灰音ちゃんがこれ以上離れてしまわないように強く引っ張る。見上げた彼から喉に何かが詰まったような声が漏れていた。
教室に着くと灰音ちゃんが扉を勢い良くスライドする。中に入ればもちろん見知った顔ばかりで私はホッと息を吐いた。
「おはよ、柳楽。白雪ちゃん!」
大良をはじめ、クラスメイトと次々に挨拶を交わしていく。灰音ちゃんが自分の席に鞄を置いたところで、私の席はどこだろうかと辺りを見渡した。
「白雪さん」
名前を呼ばれて振り向けば、艶やかな黒髪が目の前で揺れる。品のある仕草は見るからに“お嬢様”な雰囲気を醸し出していた。
「あなたの席はこちらです。柳楽さんが煩いので先生の了承を得て前後にさせていただきました」
「あ、ありがとうございます……」
まだ話をしたことのないクラスメイトの一人だ。美人だなと見惚れていれば、こほんと小さく咳払いをしたその女生徒は固い表情を崩して微笑む。
「私は
何を聞いたのかは分からないが、横目で灰音ちゃんを見たゆかりは私の手を取って握りしめる。
「どうぞよろしくお願いいたします」
「お、お願いします……!」
そんな彼女を灰音ちゃんは猫のように威嚇していた。
「灰音ちゃんと席が近いの嬉しいねぇ」
私が灰音ちゃんに笑ってそう言うと、ゆかりはハッと口に手を当てながら「しょ、小動物……」とよくわからないことを呟いている。
「そーか」
私の頭をナデナデする灰音ちゃんは多分無意識なのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます