第11話
「柳楽に脅されてんの?大丈夫?」
私に憐れむような目を向けるこの少女は、ツンデレで照れ屋の圧倒的男子人気を持つキャラクター。つんとしているが中身は可愛いものが好きな女の子で黒髪ボブがよく似合う。
原作初期にて、お礼を言う一路に対し『アンタを助けたわけじゃないよっ!!』と頬を染めながら答えたのは伝説的萌えシーンだ。
「大丈夫です……。灰音ちゃんは優しいので……」
「……そう」
納得のいっていない美織は、一度想像したのかウゲェと吐きそうな顔をしたが……何にも言わなかった。肩にポンと手を置かれて「殴られたら絶対に言いなよ」とだけアドバイスしてくれる。
「フザケンナ……!!」
怒りすぎてカタコトになる灰音ちゃんのどす黒いオーラが辺りを包むが
「灰音ちゃんはそんなことしないです。絶対に」
強く言い放った私に少し驚いたかと思うと、すぐに怒りを収めてくれたようだ。
「いい子だね、アンタにもったいないわ」
「黙れ。……そんなんじゃねぇわ」
二人が交わしたコソコソ話は私には聞こえなかった。
用意されていた朝食を灰音ちゃんが二人分受け取って運んでくれる。私も運ぶと伝えたが「お前は黙ってついてこい」とドSなプロポーズみたいな言葉を頂戴した。
灰音ちゃんについて長テーブルの椅子に座る。向かい側で黙々と朝食を取る超絶美少年が視界に入って凝視していれば、目線を上げたその人とバッチリ目が合った。
「うわぁ……」
思わず椅子に座ったまま後退りする。隣で座る灰音ちゃんはそんな私を奇怪な目で見ては向かいの彼に視線を移し、眉間に皺を寄せた。
「ンだよ、またビビってんのか」
「だ、だって……」
プルプルと震える私が助けを求めて灰音ちゃんに手を伸ばす。その腕を掴むと灰音ちゃんは自分の背に回して、それから私の背中をポンポンとあやすように優しくたたいた。
灰音ちゃんの脇腹に抱きつく私を怪訝そうに見て(この視線にももう慣れた)美少年は片眉を上げる。
「……何?」
天使のようなビジュアルとハスキーボイスのギャップには驚いた。色素の薄い肌とくるんとカールした睫毛。女装すればその辺の女子には圧勝するであろう。そんな見た目とは裏腹に……お腹の中は真っ黒。これが私のビビった理由である。ドS加減は灰音ちゃんといい勝負だ。
「ジロジロ見ないでくれる?」
「……可愛いね」
「最悪」
思ったままを言ってしまって、はっと我に返る。この人は“可愛い”と言われるのが嫌いだった。ふふっと思わず笑みが漏れてしまう。
「でも強いしカッコいいよねぇ。ギャップ萌え」
「は、ハァ!?何言ってんの!馬鹿じゃない!?」
ぶわわっと顔を真っ赤にする豹芽にまた「可愛い」と言ってしまいそうになった。
すると抱きついていたはずの灰音ちゃんが私の頭頂部を鷲掴んでギチギチと力を込める。
「いだだだだ……っ」
「てめ……っ!何言ってんだよ!!もうアイツ見んな!!」
何故か怒っている灰音ちゃんに痛みでぎゅうっと抱きつくと、頭の締め付けから解放された。
「灰音ちゃぁん……灰音ちゃんが一番カッコいいよ……先生の次に」
「……一言余計だ、アホ」
半泣きでしがみつき、言い訳のような言葉を並べる私にため息をついた灰音ちゃん。そのまま、再び背中をたたいて宥めてくれる。
「僕の前でイチャつかないでくれる。馬鹿みたい」
盛大にため息をつくと、呆れたような視線を寄越して豹芽は席を立った。思春期か、分かるよ。
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