第10話
「あれ、柳楽くんが女の子連れてるなんて意外!彼女?」
明るく茶化すような声と綺麗な顔が突然現れて更には近付いてきたから、思わず小さく叫んで灰音ちゃんの背中に顔を押し付けた。私には刺激が強い。
恐る恐る話しかけてきた人を見る。ニコニコと愛想の良い顔も、私はよく知っていた。
「いいか、コイツには近づくな。妊娠すんぞ」
「え、怖い」
「無視!?変なこと言うのやめてよ!!」
灰音ちゃんが割と真面目に私に諭す。少年漫画だぞ、これ。
チャラくて女好き、モテるのも頷けるがあまりに軽い印象が強い。しかしいざという時はカッコ良く仲間をフォローするこの男は──。
「俺は
ぱちん、とウインクした大良に灰音ちゃんは「ウゲェ」と舌を出して嫌悪感丸出しだった。
「……私は女の子という定義に当てはまるのかどうかも分からないので優しくしなくても大丈夫です」
その美しい顔に恐れ慄きながらも手を前に出してストップをかける。キラキラのフィルターがかかったような背景が漫画らしくて笑いそうになった。
「あはは!すっごいネガティブだね、こんなに可愛いのに!」
「やめてくださいそんなキラキラした目で見ないで」
ときめきはしない。褒められて喜びもしない。
ただこんな私にもポンポンと出てくるお世辞に、恐ろしくて顔が青くなるのが分かる。
「あれ?顔を赤くされたことはあるけど青くされたのは初めてだなぁ」
私の反応を見て面白そうに笑う大良に小さく「ひぇっ」と声が漏れて、すぐに灰音ちゃんに回収された私でした。
共有スペースに直結する食堂……というほど大層なものではないが。灰音ちゃんについて足を進めれば、ポニーテールの美少女が私の顔を覗き込んだ。
「あれ、昨日の。前髪切ってるじゃん。顔見せてよ」
私の前髪を撫でてふわりと笑う。ドキッと胸が高鳴った。
見た目は普通に活発な美少女だけど、中身は姉御肌かつ男前。“彼女が男子なら是非とも結婚してほしい”と言われるほど、女子からの支持率No.1である女性キャラ──
「よろしくね」と頬を撫でる仕草は確信犯なのかと疑いたくなる。イケメンすぎて、先ほどのモテ男(大良)も霞むほどだ。女にしておくにはもったいないが、男だと天然タラシすぎて勘違いする女性を増殖させるだろう。
「ありがとうございます……」
思わずお礼を告げると、彼女は首を傾げてから目を細めて笑った。
「可愛い子だな、柳楽」
「……うるせェ」
「へぇ、否定しないんだ。めずらし。柳楽って女に興味あったんだね」
舞里が言ったことに対して小さめに返した灰音ちゃん。そしてそんな彼を近くで見ていた女の子が意外そうに声をあげ、「あ"ぁ!?」と灰音ちゃんがその子が座っていた椅子をガンッと蹴っていた。足癖が悪いな。
「ダメでしょ、灰音ちゃん」
「……」
私が背中の服をくいくいと引っ張ると彼が黙り込む。怒りで言葉も出ないのだろうか。私の位置からは顔が見えないため、灰音ちゃんの表情は分からない。「うわ」と顔を顰めて珍獣でも見るかのような目を向けたのは、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます