第12話
朝食を終えて立ち上がる。今日は土曜日らしい。共有スペースで柳楽灰音や橘一路が所属する特進科──1-Sのメンバーが各々リラックスムードで過ごしている。
そこへ、寮の玄関扉が開く。ぬるっと隙間から入ってきたのは私の愛する丹羽先生だった。
「あ!先生!」
「おはよう」
生徒たちが何事かと駆け寄ると、先生は無表情のまま片手を挙げる。キョロキョロとあたりを見渡してから私と灰音ちゃんを見つけると手招きをした。それに従って近寄っていく灰音ちゃんに私もついていく。
「昨日ぶりだな、よく眠れたか」
「はい……!今日もかっこいいですね……!」
灰音ちゃんの背中から離れて先生の目の前までいくとその顔を見上げた。私の頭に手を乗せると、ゆっくりと撫でてくれる。今なら死んでもいい。
ざわっと周りが一瞬騒がしくなったかと思うと、静まり返る。そこで初めて私に集まる視線に気付いた。
思わず先生のお腹に抱きつく。後ろで灰音ちゃんが吠えているのは聞こえないフリだ。
「……君の入学が決まったよ、月曜からだ」
「えっ、もうですか?」
「ああ、1-Sへようこそ」
肩をポンとたたかれて丹羽先生を見上げる。薄く微笑む顔に惚れ直した。
「……結婚して」
「テメェ!!☆$%÷×○*€#!!」
灰音ちゃんの聞き取れない意味不明な言葉を聞き流す。
先生はジトリとした目で灰音ちゃんを見ながら無言で私の髪を撫でていた。
しばらく先生の匂いを吸い込んでいると、首根っこを掴まれて引き離される。
「いー加減にしろ!!」
他の生徒たちに抑えられていた暴れん坊の灰音ちゃんがゼーゼーと荒く息をして怒っていた。
「灰音ちゃん」
引き摺られながらへらりと笑って彼を見上げる。
「やったねぇ、クラスメイトだ」
私を見下ろして一瞬動きを止めた灰音ちゃん。掴まれていた後ろ襟をパッと離すと、私を脇から持ち上げて立たせた。
じーっと感じた視線に再び居た堪れなくなってしまう。私の目前には1-Sの生徒が目を丸くしているなんとも言えない光景が広がっている。複雑だ。
「オラ、名前くらい言え」
灰音ちゃんがポケットに手を突っ込んだまま肩で私の背中を押す。彼なりの激励にゴクリと唾を飲み込んだ。
「し、白雪未来と申します……」
「か、可愛い……」
頭を軽く下げるとみんなも慌てて会釈する。いい人たちなのだろう。雰囲気が柔らかくて心地良い。
「彼女は月曜日からお前らのクラスメイトになる。仲良くしろよ」
「はいっ!」
丹羽先生の言葉に、そこにいた全員が元気よく返事をした。
……よかった、歓迎されているようで。
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