第1話 千重の一日

 暁の空、千重は目覚めた。頭がぼんやりしている。部屋にメイドがやって来て、朝食の席まで一緒に向かう。千重は、そう言えば昨日のアプリの返信について考えている。見知らぬマイケルという人からの『愛している』という言葉。千重は、まだ頭がぼんやりしていた。朝食の席で父と母に、アプリのことを話すかどうか迷っている。けれども、千重はなんでもないと自分に言い聞かせる。


 学校まで黒塗りの高級車で通学する千重。今日も運転手がいろいろ話しかけてくる。千重は、そんな運転手の言葉たちにまるで興味なかった。千重は走り去る景色にため息をひとつ。千重はなんのために生きているのかがわからない。千重は今の生活になぜか味気ないと思っている。


 学校は今日は午前中で早退の予定の千重。午後から社交の予定があるからだ。勉強は真面目でそこそこの成績だ。千重がアプリのことを考えている。今は授業中。見知らぬマイケルの言葉。千重はドキドキと驚きがある。それと何かの不安。見知らぬ相手の言葉だからだろう。


 昼食は走る高級車の中で。携帯電話のアプリをちょっと見た千重。あれからマイケルからは何も言葉は来ていなかった。よく考えてみれば、怖いと感じる千重。でも、千重の心には何かを待望する自分があることを気付く。この退屈な日常を変えてくれる何かを。


 社交の会場に到着した千重は、仲のよいひとつ年上の鬼川晴人と話している。晴人は千重の行動を読んでいるかのように、例えば、空いたコップにジュースを注いであげたり、空いた皿があればサラダを装ったり。晴人は紳士みたいな感じを千重に印象付けする。千重はこの時は笑顔である。半分は社交的な笑顔なのだが。


 それから、千重が自分の部屋でへとへとになっているのは晩のことである。可愛らしいクマのぬいぐるみを片手に、もう片方の手には携帯電話。千重はアプリのマイケルのことを考えていた。全く馬鹿らしい、そう千重は考えている。見知らぬ相手の言葉で日常が変わるわけがないと。しかし、千重はドキドキする。見知らぬ人の言葉でもいい、この退屈な日常が変わるならば。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る