#02 さらに窮地に! そして提案が?!

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解雇のショックもさめないうちに、大切な伯父が詐欺に遭った。早急に2万ドルが必要だという。自分がなんとかすると決意したアデルに、カミラは大金を稼ぐ方法を提案する。


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「2万ドル?」

 カミラがお茶のカップをアデルに渡しながら、目を丸くした。

 解雇されて2日後、アデルはまたカミラと会っていた。新たに勃発した難題を相談するためにカミラの自宅を訪れたのだった。

 問題が判明したのは、解雇の翌日、伯父が経営する病院を訪ねた時だ。伯父の顔を見るだけのつもりだったが、待っていたのは暗い表情の伯父と多額の借用書だった。

 伯父は長年貧しい人々のために病院を経営してきた。時には窮地に立つ人のシェルター的役割も果たす、この地域になくてはならない病院だ。やり手の伯母が財政面をやりくりしてなんとか維持してきたが、伯母が1年前に病気で亡くなり、経理にうとい伯父は、友人の紹介で経理担当者を雇った。その経理担当者が突然辞めて連絡が取れなくなり、大金の借用書が残されていたという。あり得ない利率の利息として1週間以内に2万ドルを用意できなければ、病院が差し押さえられるという。

 土地を狙った詐欺と確信していても、巧妙に書かれた借用書に不備は見つからなかった。


「1週間のうちにってこと?」

 カミラの問いにアデルはうなずいた。

「伯母を失って落胆しているところにこれでしょう? 伯父はいっきに老けこんで、体調も悪そう。だから、わたしがなんとかしなければ」

「仕事をクビになったばかりで困ったわねえ」カミラが考えこむ。

「ほんと。自分のふがいなさが情けないわ」

「あなたはなにも悪くない。あえて言えば、美しすぎるのよ。女のわたしでもほれぼれするんだから、男はみんなそそられると思うわ。翡翠色の瞳、白い肌につややかな黒髪。めりはりのあるプロポーション! わたしが見ても、しみじみうらやましいもの」

「でも、この容姿が役に立ったことなんてないわ」

「うーん。わたしが2万ドル貸そうか?」

「いいえ、それはだめ。自分で稼いだお金でなければ使えないし、伯父も受けとらない。律儀な人だから」

 伯父の性格はアデルが一番よく知っている。

「そうね、そう言うと思った。うちの兄はあなたにぞっこんだから、あなたのためならいくらでも出すと思うけれど、もちろん断るでしょ?」

「ええ」

 アデルはうなずいた。カミラの兄に好意を持たれていることはわかっているが、その気持ちに応じる気がないのだから、借金するなど論外だ。

「そうでしょうね。たしかにあいつは、自分の兄ながら上流階級風を吹かせた薄っぺらな男だから、お勧めしないわ」

「お兄さまのこと、そんなに悪く言ってはだめよ。自分だって人のこと言えないでしょ」 

 カミラは素行が悪すぎて私立学校を退学になり、アデルが通っていた公立高校に移ってきた。

「たしかに。でも、おかげであなたに会えたんだから、世の中、なにが幸いするかわからないものよね。公立校にこんなに美しくて素敵で賢い女性がいたなんて、ほんと、わたしラッキーだったわ。あなたが勉強を見てくれたおかげで卒業できたし」カミラがそう言いながら、両手をあげて、ソファの背にどんともたれこんだ。「こういう時は、お茶じゃなくてワインが必要よね。飲まなきゃ、いい考えなんて浮かばないわよ」

 カミラはいつもそんなことを言っているが、結局は必ず役に立つ助言をしてくれる。案の定、今回もすぐに目を輝かせてソファから身を起こし、アデルをじっと見つめた。

「思いついた。今度こそ、その美貌が役立つわ」

「美貌? ちょっと待って。なんの話?」アデルはとまどった。

「2万ドルが稼げるいい話よ」

 カミラがにんまりする。

「だめ、いかがわしいことは絶対にしない」

 アデルは言下に断った。

「そんな話じゃないわ。大丈夫、あなたがまっとうなことしかしないとわかっているから」

 カミラはなだめるように言い、またソファの背にゆったりもたれた。

「短期間でそんな額を稼げるまっとうな仕事なんてないわ」

「それがあるのよ。まさに最適のチャリティイベント。恋人オークションよ」

「恋人オークション?」

「そう。親戚が主催していて、出品するのに、だれかいないかってちょうど頼まれていたところ。落札された金額の半額が自分のものになるわ」

「でも、落札されて、なにをするの?」

 恋人オークションなんて聞いたこともない。その言葉だけでも、危険な感じがする。

「3カ月の期限で落札者の恋人役をするの。厳しい制約が設けられているから危ないことはなにもないわ。出るほうも落札するほうも、あくまでチャリティだからね。落札するのは大金持ちのおじいさんばかり。ほっぺにキスされるくらいの恋人ですむはずよ」

 おじいさんに頬にキスされる光景を思い浮かべて、アデルはぎょっとした。

「うーん」

「あとは、パーティや観劇に同行したり、ディナーを楽しんだり、そんなところかな。頑固な年寄りに、忍耐強く、優しく接してあげればいいの」

 カミラが軽い口調で言う。

 それを聞いてアデルの心が動いた。それならば、なんとかなるかもしれない。伯父の病院の手伝いで老人と話すのは慣れているし、優しく接するのは得意なほうだ。それに、年輩の方々は人生経験があるから話もおもしろいだろう。オークションというのは気が進まないが、ほかに方法がない。1週間後の期日までにお金が手に入らなければ、土地と建物を巻き上げられてしまう。

「わかったわ。ほかに方法はないものね」アデルはしぶしぶうなずいた。「よろしくお願いします。ドレスもないし、どうしたらいいかわからないけど」

「大丈夫、まかせなさい。美人を着飾るのは、なにより楽しいしね」

 カミラがにっこりした。

「でも、大げさに着飾りたくないわ」

「心配しなくて大丈夫。上品で洗練された装いを考えてあげる。それだけは得意なの。その瞳が引きたつ色のドレスは、そうねえ、シルバーがかった淡いミントグリーンはどうかしら。それとも、定番でピンクがいいかな」

「ねえ、さっきも言ったけど、そんなドレス、用意するお金がないわ」

 考えただけで気が遠くなり、アデルはあわててさえぎった。

「だから、さっきも言ったけど、まかせなさいって。わたしが持ちかけた話なんだから、服もアクセサリーもすべて貸しだすわ。まかせるというのはそういうことよ。文句はなし。わかった?」

 カミラがきっぱりと言う。

 たしかに、借りる以外に手はない。アデルは親友の申し出をありがたく受けようと思った。いつか恩返しの機会もあるだろう。

「わかったわ。ありがとう」

「よかった、アデルお姫さま改造計画開始!」カミラが立ちあがった。

 カミラのあとについて衣装部屋に入る。この部屋だけでも、確実にアデルのアパート全体よりも広い。片方の壁一面に取りつけられたクローゼットを開けると、美しいドレスが数えきれないほど並んでいた。

「さあ、着てみてちょうだい。まずは、このピンク色のドレスから」

 アデルは感嘆とも諦めともつかないため息をつき、着ていた服のボタンをはずし始めた。

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