UMA(未確認生物)娘 プリティハイドアンドシーク

碧美安紗奈

オープニング

 これは、わたしたちの世界とは少し違う世界のお話。

 その世界では、別の世界の未確認生物UMAの名を受け継いだUMAユーマ娘という少女たちの種族が存在する。

 人から隠れることを得意とする彼女たちは、かくれんぼハイドアンドシーク大会で競い合い、その勝敗によってアイドルとしての立ち位置を得て、歌い踊り、そして輝く。

 これはそんなUMA娘と、彼女たちのコーチとなった、あなたの物語。



「コーチ、よろしくお願いします」


 UMA娘を育成する名門校クリプティッド学園。その和洋折衷な校舎前、広がる校庭で新入生の〝ケセランパセラン〟は、わたしにそう挨拶をした。

 ボブにしたフワフワの銀髪を持つUMA娘だ。小柄で、一年生の青いブレザー制服を纏ったかわいい系の美少女である。


「研究生のケセランパセランです。身長は142cm、体重は1㎏、特技はフワフワすることです。スリーサイズは――」


 わたしが慌てて「そこまで自己紹介しなくていいよ」と止めると、彼女は気づいたように赤面。

 ぴょんぴょん跳ねながら言い繕った。


「あ、ご、ごめんなさい。ふわふわした発言が多いってよく友達のスカイフィッシュちゃんとかに注意されちゃうんですけど」


 それも彼女の得意な面を伸ばせる個性なのかもしれないと受け入れる。

 モジモジしている彼女に自分も簡単な紹介を済ますと、改めて手元にあるファイルに目を落とした。事前の入学テストで明らかになった、彼女のかくれんぼ能力を数値化したデータがそこには記載されている。


 スピード/50

 ステルス/50

 サイレント/50


 各々の項目が百点満点中のもの。スピードは隠れ場所まで移動しそこに潜む素早さ、ステルスはより見つかりにくい隠れ場所を選定するうまさ、サイレントは隠れ場所で気配を消しじっと耐える根性を示している。

 つまりケセランパセランは全て平均点というわけだ。だが、ここまで均整がとれているのは珍しい長所となるだろう。


「「「コーチ」」」

 そこで、後ろから三重奏の声を掛けられてわたしは思わず振り返った。すると、校庭を囲う木々を背景に意外な三人がそばに立っていた。


「ボク、その子に注目してたんだよ。合同練習させてくんない?」

 最初に続きを紡いだのはボーイッシュな美少女。一本歯の高下駄をはき、翼を生やし、短髪の髪に天狗のお面を斜めに被った生徒会に属する黄色い制服の二年生〝天狗〟だ。


「ううん、たぶんわたちの方が注目は早かったはずだじょ。よって合同練習はわたちとするじょ」

 次いでアピってきたのは、なぜか頭に皿を乗せ背中に甲羅を背負い緑髪をツーサイドアップにしたおっとりタイプの美少女。三年の赤い制服を着た副生徒会長の〝河童〟だ。


「困ったでありんす。彼女との練習は、ウチが予約したかったんでありんすけども」

 最後に開口したのは、地面まで届くほど長い黒髪のポニーテール、痩せた美人系の少女でなぜか扇子をひらひらとさせている赤い制服の三年。生徒会長の〝ツチノコ〟である。


 いずれも、日本三大UMA娘の名を襲名した実力者。御三家だった。


 わたしは驚嘆する。

 この三人がそろって合同練習を希望するとはただ事ではない。よほど何らかの才能を見込まれたということだろう。

 わたし自身、入学式での模擬かくれんぼでケセランパセランに輝きを感じたのだが、御三家の眼鏡に適うとは思わなかった。

 ケセランパセランも、新入生の多くが憧れる三人に誘われたためにかぽかんとしている。


「ケセランパセラン」

「ひゃ、ひゃい!」

 名前を呼ぶや緊張のためか変な返事をした生徒にアドバイスをする。

「君がよければ、誰と訓練するかぼくもおすすめを口にしてもいいかな?」

「む、むしろお願いします」彼女はぺこぺこ頭を下げて頼んできた。「あたしだけではとても決めきれそうにないので」


「へえ、おもしろそうじゃん。〝おまえは妖怪、てか伝承的には天狗道に落ちた人間だろ〟とも評価されるボクが、人とUMAと妖怪の可能性を併せ持つ隠れかたを指南してあげるよ」

 天狗は腕組して挑戦的に応じる。


「ならわたちを選ぶんだじょ、妖怪ともされるから。あと相撲も得意なんだじょ、隠れんぼで役立ったことは数知れないから教えてあげられる。期待していいじょ」

 河童は腕をバタバタさせて楽しそうだ。


「確かに、コーチの提案はいいでありんすね。ウチは人とも妖怪ともされまへんが、日本最大の正当なUMAとされるツチノコの名を継いどります。信じてよろしどすよ」

 ツチノコは広げた扇子で蠱惑的に口元を隠した。


 もともとこれから行おうとしていたのは、デビュー戦となるかくれんぼ。超新星賞に向けての訓練だ。

 競技場のメインは土、中央に池、周りを森が囲んでいる。それぞれの位置は違うがちょうどどれもが学園の校庭にあるものだ。出場者は飛行機に乗り上空からここにパラシュートで降下、着地と同時に代々鬼の役割を担うドローンに似たUMA娘ドローンズがカウントダウンを開始。ゼロになるとUMA娘たちを捜し始める。

 見つからなければUMA娘たちは以降の競技場内の移動も自由。見つかるのが遅い順に上の順位となり、かくれんぼ後のアイドルステージではいい位置で歌い踊れる。


 これがケセランパセランたちが憧れ目指す舞台なのだ。


 合同練習を望む三人は、おそらく自分の得意分野を伸ばそうとするだろう。

 天狗は飛翔を得意としスピードに優れる。

 河童は泳ぎが得意でステルスに優れる。

 ツチノコは擬態が得意でサイレントに優れる。


 そして現在の能力こそ全て平均値だが、襲名したケセランパセランは浮遊を得意とするUMA娘だ。彼女も伸ばしやすいのはそこだろう。

「噂では」わたしは悩みながら、思わず呟く。「今年は世界最古のUMAクラーケンの襲名者、世界で最も有名とされるネッシーの襲名者、彼女と肩を並べる世界三大UMAのビッグフットとイエティ、本来生徒会の君たちと並ぶはずだった日本四大UMAにして日本最古の鬼の襲名者も出場するそうだからね」


 それを聞いて、UMA娘たちは緊張しつつもどこか期待しているようでもあった。


「さて、誰に頼もうか」


 今、新たな物語が始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

UMA(未確認生物)娘 プリティハイドアンドシーク 碧美安紗奈 @aoasa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ