EP1.4

「どうでした?」

 意識を取り戻したイヴに対して、メアが食い気味で聞いてくる。

「……」

 イヴはぽりぽりと頬を掻いた。そして、呟く。

「たぶん、病気で死んだ」

「たぶん、ってなんですか」

「アクセスできるバイタルデータが少なすぎるんだ……どれだけ探しても追体験できるのは死亡する直前の一分間だけだった。それに……データの日時もバグってる」

 船内時間は一年以内に収まるはずだから、すべての出来事は新暦2161年か2162年にしか起こり得ないはずなのだ。ところが、このデータの日付は2242年と記載されている。つまりこのデータによると、ニアハが死亡したのはアフェリオス号が発進してから八十年後だったということになる。

 はあ、これでは、何もわからないじゃないか。

「とりあえず、少ないながらも情報を整理してみようかな」

 イヴはもう一度名簿リストに目を通した。えーっと、この中で高齢の女性は……いた。


『Name: Deadra Eagle 《ディドラ=イーグル》

 Sex: Female 《女性》

 Birth: 5/7/2090 《当時70歳》

 Occupation: Investor 《職業:投資家》』


 スペースネクストへの多額の支援金で、乗船権の獲得に成功した女性の資産家らしい。

 老婆ディドラのデータの備考欄に文字を入力していく。

『ニアハの死に際に立ち会った可能性』

 次いでイヴは、天才ニアハのデータを開く。そして追記欄にメモをした。

『病死の可能性。船内に多くの死体があったと考えると、その予測が現実味を帯びる』

 それにしても、とイヴは天才ニアハの遺体を眺めた。


 彼は「あの子が僕らの希望だ」と言った。あの子とは、誰のことだろうか?


 試しに名簿リストを眺めてみるが、該当しうる人物が多すぎて、特定できそうになかった。

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