《6/23/2242/6:15 Niehr Owen》


『ニアハ……ニアハ』

 最初に聞こえてきたのは、しわがれた女性の声だった。

 視界は真っ暗だ。目を閉じていたのか、それとも、データが破損しているのか。

『あ……、ア』

 どうやらこれはニアハが死ぬ寸前のデータらしい、とあたりをつける。

 続いて心内音声が聞こえてくる。

【もう……かすれて、声が、出ないや】

【どうやら、その時が、来たみたいだ】

 手のひらにきゅっと強い感覚。そして、女性のすすり泣く声。

【そんな、泣かないで】

 ニアハの思いとは裏腹に、高齢の女性はなおも泣き続けた。

【確かに、いろんなことがあった……ひどいこと、ばかりだった。でも、でも……】

 その時、喉にぐっと痛みが走る。

『あの、子が……』

 全身全霊を込めてニアハはそう言う。

【僕らの、希望、だから】

 そして、そこでニアハ=オーウェンのバイタルデータは途切れた。

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